うつ病

うつ病という言葉は、今や特別なものではなくなりました。誰もが一度は耳にし、身近な誰かが経験しているかもしれない、決して珍しくない心の不調です。
気分の落ち込みが続く、何をしても楽しめない、眠れない、食欲がわかない——そうしたお悩みを抱えて、一人で頑張り続けていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
このページでは、うつ病の症状と原因、そして鍼治療がどのように心の不調へのアプローチとして研究され、当院でどのように取り組んでいるかをお伝えします。

うつ病の症状と原因

症状

うつ病の2つの主要症状は、抑うつ気分と、興味や喜びの喪失です。
抑うつ気分とは、理由もなく気分が沈み、何ごとも悲観的に考えてしまい、空虚感や悲しさを伴う状態をいいます。これに関連して、自分には何の価値もないと感じる無価値感や、自殺企図などが見られることもあります。
興味・喜びの喪失とは、元来楽しめていたことにも楽しみを見い出せず、感情が麻痺した状態をいいます。気力の低下と易疲労性、集中力・思考力・決断力の低下などもこれに伴いやすく現れます。
さらにこれらの精神症状に加えて、食欲・体重、睡眠、身体的活動という三つの面でも、顕著な減少または増加が見られます。アメリカ精神医学会のDSMの診断基準では、上記の主要症状を1つ以上含む複数の症状が2週間以上続くことが、大うつ病の診断条件となっています。

原因

うつ病の発症要因としてまず挙げられるのは、仕事や家庭でのトラブルといった精神的ストレスです。しかし実際にはそれだけにとどまりません。気候や季節の変化による影響、ご本人も自覚していないような身体的ストレスの蓄積など、背景は人によってさまざまです。ストレスの原因が一つに特定できないケースの方が、むしろ多いのかもしれません。
特に気がかりなのは、日本国内の若い世代の状況です。心の不調は気の持ちようで片付けられるものではなく、社会全体で向き合っていくべき課題だと当院では考えています。

なぜうつ病に鍼治療が効果的なのか

エネルギーのバロメーターという考え方
うつ病になった状態を、たとえ話でご説明します。体の中に、エネルギー量を示すバロメーターがあるとします。うつ病は、そのエネルギー量がストレスなどによって減ってしまった状態です。
仕事をするためのメモリを下回ると仕事ができなくなり、散歩をするためのメモリを下回ると散歩ができなくなり、起きているためのメモリを下回ると、起きていることさえ難しくなります。健康なときには当たり前にできていたことが、できなくなってしまうのです。メモリを下回っているときは、頑張ってもできません。
このメモリの基準は人によって全く違いますし、同じ人でも日によって変化します。趣味はできるのに仕事はできない、昨日はできたのに今日はできない――そうした状態は、まわりの人にもご本人にもとてもわかりにくいものです。
鍼治療は、このエネルギーをチャージすることができると当院では考えています。治療と同時に、日々エネルギーを減らしている原因を探り、生活習慣や物の捉え方を少しずつ見直していくことで、確実にエネルギーを増やしていきます。エネルギーがメモリを上回ってくれば、自然にできるようになるだけでなく、ご自身からやりたいという気持ちが湧いてくるものです。

国内外の研究から見えてきたこと
うつ病に対する鍼治療の効果については、近年、国内外で研究が進められています。もっとも権威あるレビューのひとつとされるコクラン共同計画のシステマティックレビュー(Smith CA et al., 2018)では、64件・計7,104例のランダム化比較試験を分析し、「鍼治療は、従来の治療や無治療と比較した場合に抑うつ症状を中等度に低下させるかもしれない」と報告されています。
また、イギリスのプライマリケア27施設・755名を対象にした大規模な実臨床試験(MacPherson et al., 2013, PLOS Medicine)では、鍼治療群・カウンセリング群がいずれも通常治療群より有意な改善を示し、その効果は12ヶ月間持続したと報告されています。厚生労働省が紹介する統合医療情報サイトでも、うつ病に対する鍼治療について「症状をわずか〜中程度軽減させるかもしれないというエビデンスがある」と紹介されています。

 

当院の施術アプローチ

当院では、抑うつ感や活動量の低下、睡眠や食欲の乱れといったお悩みを訴える患者様に対して、体全体のバランスを整えることを目的とした鍼治療を行っています。
黒野式全身調整基本穴
その中心となるのが、私の師である黒野保三先生が考案された「黒野式全身調整基本穴」への刺鍼です。全身に配置された13の経穴を用いて、局所ではなく体全体の調和を図っていくアプローチで、当院の施術の土台となっています。
精神症状に関わる経穴
全身調整基本穴に加えて、精神症状との関連が深いとされる百会(ひゃくえ)、膻中(だんちゅう)、合谷(ごうこく)といった経穴も併せて刺激し、心身両面からのケアを心がけています。
超音波治療器の併用
鍼治療に加え、超音波治療器を併用することもあります。1MHzの超音波による微小な機械的振動を深部組織まで届けることで、加温効果と血流の改善を促し、鍼治療そのものの効果をより高めるサポートとしています。こうした組み合わせにより、一人ひとりの状態に合わせたきめ細やかな施術を目指しています。

日常生活でできること

うつ病(定型型うつ病)は繰り返すことが多いという特徴があるため、再発を防ぐことが大切です。またこの病気は幾帳面な人、完全主義、理想の高い人に多く発症するといわれています。そのような方がさらに頑張り続け、疲れきった挾句、大うつ病になるケースもあります。そのため、余裕のある生活を送ることや、早めに休むことが重要です。

生活環境に寄り添うカウンセリング
心の不調は、施術室の中だけで完結するものではありません。当院では、患者様一人ひとりの生活環境や日頃の思考のクセ、食事・睡眠・運動・入浴の習慣についても丁寧にお話を伺うようにしています。そのうえで、日常生活の中での負担を少しでも減らせるよう、個別のアドバイスをお伝えすることも大切にしています。

ポイント1:考え方・視点を変える

真面目で熱心な性格の人ほどうつ病を患いやすく、反対に楽観的で細かいことを気にしない人はうつ病になりにくいといわれています。思い詰めすぎないように物事に取り組む姿勢を意識し、ストレスを軽減するよう心がけましょう。

ポイント2:定期的なリラックスを心がける

心身の力みを抜き落ち着かせる、すなわちリラックスした状態はとても重要です。ため息が増えてきたと感じたら、外の空気を胸いっぱいに吸い込んで深呼吸をするとよいでしょう。ストレスや緊張が薄れていくのを自覚できます。軽い運動など自分が好きなことで身体を動かすことも、大変効果があります。

ポイント3:十分な睡眠をとる

睡眠は身体の疲れを取り、記憶を整理して脳の疲れを和らげる働きがあります。睡眠時間が短く不規則であると、おのずと睡眠で得られる効果は中途半端になってしまいます。睡眠時間は十分にとり、また眠気を感じたら眠って脳を休めることを心がけましょう。短時間の仮眠も効果があります。

よくあるご質問

Q

うつ病は治りますか?

A

一般的にうつ病と診断されている方には、鍼治療が有効な場合が多いと考えています。鍼治療と生活習慣、考え方の修正をうまく組み合わせ、毎日のエネルギーの増減をプラスにしていくことで、少しずつの改善が期待できると考えています。

Q

うつ病の診察の際、家族と一緒に来院することはできますか?

A

できれば初診は、ご家族と一緒にご来院いただきたいと思います。患者さまのご家族には、鍼治療の詳細な説明を聞いていただき、安心して治療を受けていただけるようにしています。

Q

病院で処方されたうつ病の薬を、できれば減らしたいのですが? 

A

鍼治療を始めてしばらくは、薬の服用をそのまま続けて頂いています。すぐに中止してしまうと、薬の離脱作用によって鍼治療の効果に不安を感じる方が多いからです。体の調子が良くなると薬の必要性が減ります。その後、主治医の先生とご相談いただきながら、薬の調整を進めていただければと思います。

おわりに(焦らずに、少しずつ)

うつ病は、まるで複雑に絡み合った一本の糸のような状態だと感じています。一見どこから手をつければよいのかわからなくなってしまうものですが、端から一つひとつ丁寧に紐解いていけば、少しずつ元の状態に戻していくことができるものだとも考えています。
痛みや副作用の少ない鍼治療は、そうした回復のプロセスに寄り添える選択肢の一つになれるかもしれません。もちろん、すぐに結果が出るものではなく、焦らず根気強く取り組んでいくことが何よりも大切です。もし今、心や体の不調を抱えて一人で悩んでいらっしゃる方がいらっしゃれば、どうか無理をなさらず、ご自身に合ったペースで、少しずつ向き合っていっていただければと思います。
ご不明な点や不安な点がございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。まずはお話を伺うところから始めさせていただきます。

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