井島鍼灸院ブログ

2026.04.11更新

学生募集

投稿者: 井島鍼灸院

2026.04.11更新

 

もし、たった一つの原則で
体のバランスを整えることができるとしたら、
知りたくありませんか。

実は、東洋医学には
それに近い考え方が、二千年近く前から残されています。

その古典が
東洋医学の重要な書物
「難経」です。

そして、その中でも
鍼灸師が特に大切にしてきた章があります。

それが
第六十九難です。

今日は、この六十九難を
専門的な知識がなくても分かるように
できるだけシンプルにお話しします。

まず、六十九難の基本になる言葉があります。

虚するものは、これを補う。
実するものは、これを瀉す。
虚でも実でもないときは、経をもってこれを取る。

少し難しい言葉ですが、
意味はとてもシンプルです。

足りないものは補う。
多すぎるものは減らす。

まずは、この大原則です。

体の不調の多くは、
エネルギーが不足しているか、
逆に滞って余っているか、
このどちらかで説明できると
東洋医学では考えます。

では、
どうやって補ったり減らしたりするのでしょうか。

ここで出てくるのが
五行という考え方です。

五行とは、
木火土金水という
自然のバランスの関係を表したものです。

この五つは、
親子のような関係でつながっています。

例えば
木は火を生みます。

つまり
木が母、火が子です。

ここから生まれたのが
母子補瀉という考え方です。

もし、子が弱っていたら
母を助ければ、子も元気になります。

反対に
あるものが強すぎるときは
その子の方向へエネルギーを流して
余りを抜くようにします。

これが
「虚するものは母を補い
実するものは子を瀉す」
という原則です。

もう一つ
六十九難には、とても大事な考え方があります。

それが
治療の順番です。

先に補って、
あとから瀉す。

これを
先補後瀉といいます。

なぜ順番が大切かというと、
もし体が弱っているのに
いきなり減らす治療をしてしまうと、
本来必要な力まで
削ってしまう可能性があるからです。

まず体を支え、
それから余分なものを整える。

この順番が大切だと
六十九難は教えています。

では最後に、
もう一つのケースです。

虚でもなく、
実でもないとき。

つまり
不足でも過剰でもないのに
その経絡だけが乱れている場合です。

このときは
その経絡そのものを整えます。

これを
「経をもってこれを取る」
といいます。

つまり
原因のある経絡から
直接ツボを取るという考え方です。

このように六十九難は

足りなければ補う
多ければ減らす

そして
母子関係を使って調整する。

さらに
治療には順番がある。

こうした原則を
とてもシンプルに
しかし深くまとめた章なのです。

この考え方が身についてくると、
治療はとても静かで
無理のないものになっていきます。

古典の言葉は短いですが、
そこには
臨床の知恵がぎっしり詰まっています。

だからこそ
二千年近くたった今でも
多くの臨床家の心を
震わせ続けているのです。

投稿者: 井島鍼灸院

2026.04.09更新

カレンダー

 

何卒、よろしくお願い申し上げます。

かお2

 

 

投稿者: 井島鍼灸院

2026.04.08更新

「目の前に黒い点が見える」
「糸くずみたいな線が、ふわっと動く」
「まばたきしても消えない」

それ、もしかすると
あなたは自分の目の中を見ているのかもしれません。

これが、飛蚊症です。

■飛蚊症ってなに?

目の奥には硝子体という透明なゼリーがあります。

生まれてからほとんど入れ替わらないゼリーです。

年齢とともに、このゼリーは少しずつ変化します。
ゆるんだり、繊維が束になったりする。

その小さな濁りが
目の奥のスクリーン「網膜」に影を落とします。

ゴミでも虫でもない。
自分の目の中の影。

ちょっと不思議ですよね。

■なぜ見えたり見えなかったりするの?

飛蚊症は「影」です。

白い壁や青空ではくっきり見える。
暗い場所では目立ちにくい。

目を動かすと一緒に動き、
止めるとゆっくり漂う。

まるで水の中に浮かぶ小さなクラゲのように。

そしてもう一つ。

脳がこの影は重要ではないと判断すると
だんだん意識に上げなくなります。

消えたのではなく気にならなくなった。

■「鍼をしたら治った」と感じるのはなぜ?

臨床をしていると、

「鍼をしてから気にならなくなりました」
という声があります。

では濁りが消えたのでしょうか?

実はそう単純ではありません。

飛蚊症の多くは硝子体の構造の変化による影です。

ゼリーの中にできた繊維の束や濁りは、
透明な状態に戻ることは多くありません。

つまり、影そのものが消えることは少ないのです。

それでも治ったと感じる理由には
いくつかの可能性があります。

いち、緊張がゆるむ
不安が強いとき、
体は警戒モードになります。

すると視覚も敏感になり、
小さな影を強く意識しやすくなります。

鍼で全身がゆるむと、
この過敏さが落ち着きます。

に、脳の慣れが進む
もう一つは、時間の力。

脳は変わらない情報を
少しずつ背景へ追いやります。

最初は気になっていた影も、
繰り返し見ているうちに
無視できるものへと分類されます。

つまり
消えたというより気にならなくなった。

でも、
気にならないというのは
生活の中ではとても大きな変化です。

■ ほっといていいの?

多くの方が一番気になるのは、ここだと思います。

結論から言うと

多くの飛蚊症は、それ自体が視力を失わせる病気ではありません。
加齢による変化で起こることがほとんどで、
時間とともに気にならなくなる方も多い症状です。

■見逃してはいけないサイン

ただし飛蚊症に別の病気が隠れている場合があります。

キーワードは「急な変化」

  • 急に数が増えた
  • 雷のような光が走る
  • 視界がカーテンのように欠ける
  • 急に視力が落ちた

この場合は、まず眼科へ

■まとめ

飛蚊症は
目の中のゼリーの影を見ている状態。

多くは自然な変化です。

安心すること。
変化を見逃さないこと。

それが飛蚊症との上手な付き合い方です。

投稿者: 井島鍼灸院

2026.04.06更新

「疲れが抜けない」
「お腹が冷える」
「なんとなく元気が出ない」

そんなとき、
体の“エネルギーの貯蔵庫” を整えるツボがあるのをご存じでしょうか?
それが――
関元 です。

東洋医学では、
生命力の根っこに関わる最重要ポイント として古くから重視されてきました。

■関元はどんなツボ?

関元は 任脈という正中線上の経絡に属します。
さらに
・小腸の募穴
・足の三陰経(肝・脾・腎)との交会穴
つまり――
消化・泌尿・生殖・ホルモン・免疫
これらをまとめて底上げする“交差点”のような場所です。

別名は 丹田。
武道や呼吸法で「丹田に力を入れる」と言う、
まさに 体の重心とエネルギーの中心 です。

■ツボの取り方

場所はとてもシンプル。
おへその中心から
3寸下
お腹の正中線の上にあります。

仰向けに寝て、
「おへそから指4本下」
ここが関元です。

■名前の意味

「関」= 関所・出入り口
「元」= 元気・生命の根源
つまり関元とは――
“元気が出入りする関所”
生まれ持った生命エネルギーを
守り・補い・巡らせる門

だから古典では
「関元を整えれば、百病に備えられる」
とも言われてきました。

■どんな不調に使う?

関元が得意なのは
下半身と内臓の底力を回復させること

✔ 下腹部の冷え
✔ 慢性的な疲労
✔ 虚弱体質
✔ 免疫低下

さらに――

泌尿・生殖系
・頻尿、尿漏れ
・膀胱炎
・月経不順
・月経痛
・不妊症
・ED、精力低下

消化器系
・冷えによる下痢
・慢性腹痛

まさに
“体のバッテリー再充電ポイント” です。

■臨床での使われ方

関元は
温めるほど力を発揮するツボ

棒灸やお灸で
下腹部をじんわり温めることで
✔ 血流が上がる
✔ 内臓の働きが高まる
✔ ホルモンバランスが整う

妊活のお灸点としても
非常に有名です。

■まとめ

関元は
生命エネルギーの貯蔵庫
疲れや冷えを感じたら
まず整えるべき“体の中心”

あなたの元気のスイッチは
おへその下にあります。

投稿者: 井島鍼灸院

2026.04.03更新

 

繰り返す膀胱の不調と鍼灸:神経・粘膜・筋肉から考える

こんにちは。
「何度も膀胱炎を繰り返している」
「検査では異常なしと言われたのに違和感が続く」
そんな悩みはありませんか?

実は、
膀胱の不調は
細菌感染だけが原因とは限りません。
神経の過敏さや、

骨盤まわりの緊張が関係している場合もあります。

この動画では、

膀胱の働きのしくみや、

鍼刺激が体にどのような変化を起こすのかを、

わかりやすくお話しします。

ぜひ最後までご覧ください。

膀胱の働きは「自動制御」に近い

膀胱は、
ただの袋ではありません。
例えるなら、
センサー付きのタンクで
自動制御のバルブがあるような仕組みです。

この制御を担うのが、

3つの神経です。

交感神経(下腹神経)…ためる
副交感神経(骨盤神経)…出す
体性神経(陰部神経)…意識で止める

膀胱に尿をためている間は、

交感神経が働いて膀胱の筋肉をゆるめ、

尿が漏れないようにしています。

そしてトイレに行ける状況になると、

脳幹の橋排尿中枢がスイッチを切り替えます。

すると副交感神経が優位になり、

膀胱の筋肉が収縮して、

括約筋がゆるみ、
尿が出る
このような流れです。

尿意を伝える神経:Aδ線維とC線維

膀胱から脳には、
常に「今どれくらい溜まっているか」という情報が送られています。
この情報を伝えている神経は主に2種類。

Aδ線維とC線維
Aδ線維が通常の尿意に関わり、

C線維は炎症や刺激時の感覚に関与すると考えられています。

普段はAδ線維が働いて、
「そろそろトイレに行きたいな」という自然な尿意を作ります。

でも炎症や刺激があると、
C線維が過剰に反応します。
その結果──

まだ尿が少ないのに尿意がある
強い痛みや不快感を感じる。

こうした症状が出るのです。

このように膀胱炎のつらさは、

必ずしも膀胱そのものの問題とは限らず、

神経の過敏状態が関わっている場合もあります。

膀胱粘膜(尿路上皮)は「壁」ではなく「センサー」でもある

もうひとつ大事なのが、
膀胱の内側を覆う膀胱粘膜(尿路上皮)です。

かつては、
ここは単なる壁だと思われていました。
でも近年の研究では、

膀胱粘膜が刺激を感知する役割も持つことがわかってきています。

膀胱粘膜には2つの大きな役割があります。

尿に含まれる刺激物を防ぐバリア

尿の溜まりや伸びを感じ取るセンサー

炎症や慢性的な刺激でこのバリアが弱まると、

尿の刺激が神経に直接届きやすくなり、
痛みや違和感が強くなります。

また尿が溜まって膀胱壁が伸びると、

この粘膜の細胞からATPや一酸化窒素(NO)などの物質が放出されます。

これが尿意を生み出す信号のひとつなんです。

炎症でこのシステムが過敏になると──
少し溜まっただけで尿意が強くなる、
排尿時のヒリヒリ感が続く、

そんな状態になります。

感染がないのに不調が続く3つのタイプ

感染がないのに膀胱の不調が続く場合、

次の3つのタイプが考えられます。

①神経が痛みを覚えてしまうタイプ
長期の刺激で中枢(脳や脊髄)が過敏になり、

痛みを強く感じてしまう状態です。
これは中枢性感作と呼ばれます。

②膀胱のバリア機能低下タイプ
尿路上皮の防御層が弱り、

尿中の刺激が神経を刺激するタイプです。
間質性膀胱炎(膀胱痛症候群)でよく見られます。

③筋肉が原因のタイプ
膀胱自体は正常でも、
骨盤底の筋肉が慢性的に緊張して、

その痛みを膀胱の痛みと誤認するケース。
これは筋筋膜性疼痛と呼ばれています。

鍼灸の現代医学的な作用(3つ)

ここで、
鍼灸の現代医学的な作用を見てみましょう。
鍼灸は、
神経や血流に影響を与える物理療法の一つと考えられています。
主な作用として、
次の3つが知られています。

1.神経の興奮を落ち着かせる

足首や下肢の神経を刺激すると、

その信号が脊髄を通じて仙骨神経系に伝わり、

膀胱をコントロールする神経活動を調整します。

過剰な尿意や痛みの調整に役立つ可能性があります

2.血流を促す

鍼刺激によって、
血管を拡張させる神経反射が起こり、

骨盤内の血流が改善します。

これにより、
酸素や栄養の供給が良くなり、

炎症の修復や老廃物の代謝がスムーズになります。

3.脳の鎮痛システムを活性化する

鍼刺激は、
脳内でエンドルフィンなどの、
痛みを抑える物質を促進します。
これにより、
痛みの感じ方そのものが落ち着いていきます。

必ず先に医療機関を受診してほしい症状

すべての膀胱症状が鍼灸の対象になるわけではありません。
次のような症状がある場合は、
必ずまず医療機関を受診してください。

  • 発熱がある
  • 血尿が出る
  • 強い背中やわき腹の痛み
  • 排尿ができない
  • 足にしびれや感覚異常がある

まずは検査を受け、
感染や腎臓の病気を除外することが大切です。

まとめ

長引く膀胱の不調や、
何度も繰り返す膀胱炎のような症状の中には、

感染ではなく、
神経や筋肉の過敏状態、
バリア機能の低下によるものがあります。

鍼灸は、
こうした神経の調整・血流改善・筋緊張の緩和を通して、

薬だけでは改善しにくい慢性膀胱症状にアプローチできます。

「治療してもスッキリしない」「何度も再発する」
そんなときは、
鍼灸という選択肢も、
ぜひ考えてみてください。

投稿者: 井島鍼灸院

2026.03.31更新

カテゴリー:院長コラム / キーワード:ファシア・自律神経・痛み・筋膜上圧刺激

以前の動画で、「鍼って、本当に効くの?」という問いに向き合いました。局所での反応から脊髄、そして脳へ──一本の鍼が体の中でどんな旅をするのかを、できるだけ身近な言葉でお話ししたものです。あの動画をご覧になった方から「もっと詳しく知りたい」という声を多くいただきました。

動画の最後でお伝えしたように、鍼の効果を考えるうえでは「ファシア」という視点がとても大切です。今回のコラムは、その予告を受けての続編です。

実は、この「ファシアへの着目」は私自身の治療の原点でもあります。私がご指導いただいた黒野保三先生は、筋膜の表面に微細な圧を加える「筋膜上圧刺激」という手法を長年の基礎的・臨床的研究によって確立されました。皮膚からわずか5〜7mmの深さで筋膜を「貫くことなく」その表面を押さえるように刺激するこの手法は、浅層の筋膜に豊富に存在する感覚受容器を的確に捉え、自律神経系──とりわけ副交感神経──に働きかけることが客観的なデータで実証されています。

「東洋医学の経験知を、現代の生理学で裏付ける」──黒野先生から学んだこの理念が、私が鍼治療と向き合うときの根本にあります。そして毎日の施術の中でこの手法を実践しながら、ファシアという組織の奥深さをあらためて実感し続けています。

今回のコラムでは、その「ファシア」を軸に、鍼がなぜ痛みを和らげ、自律神経を整えるのかをわかりやすく解説します。前回の動画をまだご覧になっていない方もご安心ください。このコラムだけでも十分お読みいただけるよう書いていますが、あわせてご覧いただくとさらに理解が深まります。

1.ファシアとは何か

ファシアとは、筋肉・内臓・骨・神経・血管など、体のあらゆる組織を包んでつなぎとめている「結合組織の総称」です。コラーゲン線維・エラスチン・ヒアルロン酸などで構成されており、かつては単なる「包み紙」として扱われていましたが、近年の解剖学・生理学の研究で多彩な機能を担っていることがわかってきました。

イメージとしては、全身をすっぽり包む「立体的なボディスーツ」が一番近いかもしれません。そのスーツのどこかが固くなったり、よれたりすると、離れた場所にまで影響が出る──これがファシアの特徴です。

ファシアの主な役割

  • 力(張力)の伝達:一か所の動きが全身に連動するのはファシアのネットワークのおかげ
  • 感覚の受容:痛み・圧力・伸張を感知する「機械受容体(メカノレセプター)」が豊富に存在
  • 体液・免疫の調節:ヒアルロン酸を含む間質液の流れや免疫細胞の移動を支える
  • 自律神経との連動:自律神経の末梢線維がファシア内を走り、血管・平滑筋を支配している

2.鍼を刺すとファシアで何が起きるのか

鍼がファシアの層に到達すると、組織の中でいくつかの反応が連鎖的に起きます。その中でも特に重要なのが、コラーゲン線維の「巻き付き」です。

コラーゲン線維のWind-up(ワインドアップ)効果

鍼を少し回転させると、ファシア内のコラーゲン線維が糸巻きのように螺旋状に絡み付きます。これをWind-up(巻き付き)効果といいます。2002年にハーバード大学のランジュバンらが超音波と組織学の両方で確認した現象で、この巻き付きが機械受容体(メカノレセプター)を持続的に刺激し続けます。

施術者の手には、鍼が組織に「吸い込まれる」「魚が食いつく」ような独特の抵抗感として伝わります。これを魚咬感(fish biting)といい、鍼が正しくファシアに働きかけている合図のひとつです。

ヒアルロン酸の流動化と組織の滑走性回復

ファシアの層と層の間には、ヒアルロン酸を含む間質液が存在しています。これが組織の「潤滑油」として働き、筋肉や皮膚が滑らかに動くことを助けています。

慢性的なストレスや炎症・長時間の同じ姿勢によって、ヒアルロン酸が高分子化・凝集し、層間の動きが悪くなります。鍼の機械的刺激はこれを物理的に分散させ、ファシアの滑走性を回復させる可能性が報告されています。「施術後に体が軽くなった」と感じる理由のひとつがここにあります。

3.なぜ鍼で痛みが和らぐのか

鍼が痛みを抑えるメカニズムは、ひとつではありません。脊髄・脳幹・大脳という3つのレベルで、異なるルートが同時に働きます。

① 脊髄レベル:ゲートコントロール

1965年にメルザックとウォールが提唱した「ゲートコントロール理論」によると、太い神経線維(Aβ線維)が活性化されると、脊髄後角にある「門(ゲート)」が閉まり、細いC線維から送られてくる痛みの信号が脳へ届きにくくなります。鍼刺入によって皮膚・ファシアのAβ線維が刺激されると、この「門を閉める」反応が即座に起き、痛み信号が脊髄レベルで遮断されます。

② 脳幹・全身レベル:内因性オピオイドの放出

鍼の刺激が脳や脊髄に届くと、β-エンドルフィン・エンケファリン・ダイノルフィンといった「内因性オピオイド(体の中のモルヒネ様物質)」が分泌されます。これらが神経のオピオイド受容体に結合し、痛みの伝達を強力にブロックします。

鍼の鎮痛効果はオピオイド拮抗薬(ナロキソン)を投与すると大幅に弱まることが実験で確認されており、鍼が体の中で「天然の鎮痛物質」を引き出している証拠とされています。

③ 脳幹レベル:下行性疼痛抑制系

鍼刺激が中脳の水道周囲灰白質(PAG)を活性化させ、そこから延髄を経由して脊髄後角へ「痛みを感じにくくしろ」という信号が下降します。このとき放出されるセロトニンとノルアドレナリンが、脊髄レベルでさらに痛みを抑えます。痛み治療に使われる抗うつ薬(SNRI)の鎮痛機序と同じ経路です。

④ 全身レベル:DNIC(びまん性侵害抑制制御)

鍼の刺激が全身の痛覚閾値を引き上げ、慢性痛部位の痛みが相対的に軽く感じられるようになります。これをDNIC(びまん性侵害抑制制御)といい、「痛みで痛みを消す」現象のひとつです。

痛み抑制の4ルート(まとめ)

  • ① ゲートコントロール(脊髄):Aβ線維活性化 → 痛みの門を閉める
  • ② 内因性オピオイド(全身):β-エンドルフィンなどが痛みの伝達をブロック
  • ③ 下行性抑制系(脳幹→脊髄):PAG→RVM経路でセロトニン・NEが鎮痛
  • ④ DNIC(全身):鍼刺激による全身の痛覚閾値の上昇

4.自律神経が整うメカニズム

「鍼を受けるとリラックスする」「眠りが深くなった」という声をよくいただきます。これは単なる気のせいではなく、自律神経への具体的な作用が背景にあります。

ファシアは自律神経の「出力先」

自律神経の末梢線維(節後線維)の多くはファシア層の中を走行しており、血管・平滑筋・免疫細胞を直接支配しています。つまりファシアそのものが、自律神経の最前線の「出力先」です。ファシアへの刺激が自律神経調節に直結する理由がここにあります。

2つの入力ルート

鍼刺激が自律神経へ働きかける経路は、大きく2つあります。

  1. 脊髄経由ルート:鍼の刺激が脊髄後角でシナプスを形成し、同じ脊髄分節に支配される内臓器官へ反射的に作用します(体性─自律神経反射)。背部のツボが同高位の腎・膀胱・腸に影響するのはこの仕組みです。
  2. 迷走神経経由ルート:腹部・下肢のツボ(特に足三里=ST36)への刺激は、迷走神経の求心性線維を直接のぼって脳幹の孤束核(NTS)に到達します。これが副交感神経系を活性化させる特に重要なルートです。

HRVで確認される副交感神経の優位化

自律神経バランスの客観的な指標として「HRV(心拍変動)」があります。HRVの高周波成分(HF成分)は副交感神経の活動を反映しており、複数のランダム化比較試験(RCT)で鍼刺激後にこの成分が有意に上昇することが確認されています。

筋膜上圧刺激においても、腹部や膻中などの特定の経穴への刺激が心臓迷走神経(副交感神経)の活動を有意に増加させることが黒野先生らの研究で世界に先駆けて証明されており、「浅く・やさしく・的確に」というアプローチが、副交感神経への働きかけという点で理にかなっていることがデータからも裏付けられています。

慢性的なストレス・痛み・不眠がある方では交感神経が過緊張した状態が続いており、副交感神経が十分に働けません。鍼によってこのバランスを整えることが、痛みの軽減・消化器症状の改善・睡眠の質の向上につながると考えられています。

コルチゾールとHPA軸の調整

慢性ストレス状態では、脳の「視床下部─下垂体─副腎(HPA)軸」が過活性になり、ストレスホルモンであるコルチゾールが高い状態が続きます。動物実験を中心とした研究では、鍼刺激が視床下部の室傍核(PVN)を介してこの軸を下方調節し、コルチゾールを低下させることが示されています。

自律神経への主な効果まとめ

  • 副交感神経(迷走神経)の活性化 → HRV高周波成分の上昇
  • 交感神経の過緊張の緩和 → 血圧低下・筋緊張の軽減
  • コルチゾール(ストレスホルモン)の低下
  • 消化器の蠕動促進・睡眠の質の改善

5.経絡とファシアネットワーク

伝統的な経絡(ツボの連なり)の走行が、ファシアの連続的なネットワークと解剖学的に高く対応することが複数の研究で報告されています。理学療法士のトーマス・マイヤーズが提唱した「アナトミー・トレイン(筋膜の連鎖ライン)」と主要な経絡の走行の類似性は、東洋医学の体系を現代解剖学から再解釈する手がかりとして世界的に注目されています。

動画でお伝えした「足のツボを刺激したのになぜか腰の痛みに効く」という現象も、ファシアが全身に連続したネットワークを形成し、刺激が張力波として広く伝播することで説明できます。神経という見えない糸だけでなく、ファシアという物理的なネットワークもまた、体全体をつなぐ重要な媒体なのです。

まとめ

ファシアという視点を加えることで、前回の動画でお伝えした鍼のメカニズムがより立体的に見えてきたのではないでしょうか。

この記事のポイント

  • ファシアは全身をつなぐ多機能な結合組織ネットワーク
  • 鍼の刺激でコラーゲン線維が巻き付き、機械受容体が活性化される
  • 痛み抑制は4つのルート(ゲート・オピオイド・下行性抑制・DNIC)が同時に働く
  • 自律神経調節は脊髄ルートと迷走神経ルートの2経路で起こり、HRVの改善として確認される
  • 筋膜上圧刺激は「浅く・やさしく・的確に」副交感神経へ働きかけることをデータで実証

動画でお伝えしたように、鍼の探求はこれからも続きます。次回はさらに別の視点──経絡・周波数・術者への信頼など──も少しずつ深めていく予定です。引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

慢性的な痛み・自律神経の乱れ・なかなか取れない疲れなど、お体のことで気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。

投稿者: 井島鍼灸院

2026.03.30更新

円形脱毛症で悩んでいる方へ

「髪の毛が抜け続けて、止まらない…」
「治療を続けているのに、なかなか良くならない…」

円形脱毛症で悩んでいる方の中には、
こうした不安を、誰にも言えずに抱えている方が少なくありません。

円形脱毛症は、見た目の問題だけではなく、
心にも大きな負担を与える症状です。

今日は、ある一人の患者さんが、
鍼灸を通して希望を取り戻した経過をご紹介します。

これは「こんな可能性もある」という一例として、
参考にしていただければと思います。

ある18歳男性の経過

その患者さんは、18歳の男性でした。
将来の夢は、美容師になること。
美容学校に入り、夢への第一歩を踏み出した矢先、
異変が起こります。

連休明けから急に髪が抜け始め、
わずか2ヶ月で、頭髪だけでなく、
眉毛、まつげ、ひげまで抜けてしまいました。

ウィッグなしでは外出できない状態になり、
ついには学校を続けることも難しくなってしまいます。

病院で、ステロイド治療や専門的な治療を受けましたが、
3ヶ月たっても変化が見られませんでした。

「もうどうしたらいいのかわからない」
そんな思いで来院されました。

行ったこと

そこで行ったのが、
体全体の調整力を高めることを目的とした鍼治療です。

鍼というと、
「痛そう」「特別な治療」
というイメージがあるかもしれません。

ですが実際は、
とても細い鍼で、やさしく体に刺激を伝える治療です。

体のバランスを整え、
自律神経や血流の働きをサポートすることを目指します。

さらに、生活リズムを整えることや、
将来の目標を思い描くことなど、
心の面も大切にしました。

少しずつ現れた変化

すると、変化が少しずつ現れます。

約1ヶ月後、
「眉毛が生えてきました」
という嬉しい報告がありました。

その後、まつげや頭髪にも産毛が出始め、
回数を重ねるごとに、髪はしっかりしていきました。

最終的には、
ウィッグを外せるほど回復し、
復学への希望も持てるようになりました。

円形脱毛症と鍼灸

円形脱毛症は、
自分の免疫が毛根を攻撃してしまうことで起こると考えられています。
そこにストレスや体調の変化が重なると、
バランスが崩れやすくなります。

鍼灸は、
その「体のバランス」を整えることを大切にする治療です。

免疫や自律神経、血流など、
体全体の働きを整えるサポートを目指します。

最後に

ただし、
これはあくまで一つの症例であり、
同じ結果を約束するものではありません。

それでも、
「もう方法がない」と感じた時、
体の内側から整える視点が、
新しい選択肢になることもあります。

もし今、つらい思いをしているなら、
一人で抱え込まないでください。

体には、元に戻ろうとする力があります。
その力を引き出すお手伝いができる方法もあります。
あなたに合う道が、きっと見つかります。

投稿者: 井島鍼灸院

2026.03.28更新

列缺とは?首・頭・呼吸に働きかける重要なツボ

みなさんは、

「首がこると頭痛が起こる」
「風邪のひき始めにノドが痛い」
「息が浅くてスッキリしない」

そんな不調を感じたことはありませんか?

実はそれらにまとめて働きかける、
とても重要なツボがあります。

それが――列缺です。

肺の司令塔につながるツボ

列缺は、
手の太陰肺経に属するツボです。

肺経は、
「呼吸」「皮膚」「免疫」「自律神経」
に深く関わる経絡。

つまり列缺は、
呼吸と全身のリズムを整える入口のような場所なのです。

なぜ首や頭にも効くのか?

古典には、

「頭項は列缺に尋ねよ」

という有名な言葉があります。

これは、
頭痛・首こり・後頭部の緊張は、まず列缺を使え
という意味です。

理由はシンプルです。

列缺は、
肺経から大腸経へ枝分かれする絡穴であり、
さらに体の前正中を走る任脈を支配する八脈交会穴でもあります。

つまり――

肺 → 大腸 → 任脈 → 頭と首へと、
気の流れが一気につながる分岐点なのです。

だから列缺を刺激すると、
首・頭・ノド・胸まで一度にゆるむというわけです。

列缺の場所

場所は、
手首の親指側、少し腕寄りのくぼみ。

簡単な探し方があります。

両手の
親指と人差し指を交差して軽く握ると、
人差し指の先が当たる場所。

骨の割れ目のような
小さなくぼみにあります。

この割れ目こそが、

「列(分かれる)」
「けつ(欠け目)」

という名前の由来です。

どんな症状に使うの?

・風邪のひき始め
・咳、のどの痛み、声枯れ
・頭痛、首こり、肩こり
・後頭部の重さ
・息苦しさ
・自律神経の乱れ
・寝つきの悪さ

さらに、

女性の体調リズムや下腹部の不調には、
照海と組み合わせて使います。

これは
任脈といんきょうみゃくを同時に整える王道ペア。

胸・のど・お腹・生殖器まで
バランスが整います。

列缺の重要な役割

列缺は、ただのツボではありません。

・肺経の要穴
・大腸経へつながる絡穴
・任脈を支配する八脈交会穴
・頭頸部を治める四総穴

四総穴とは

『肚腹は三里、腰背は委中、頭項は列缺、面口は合谷に収む』

という古い歌の4つのツボを言います。

足三里はお腹、委中は腰と背中、列缺は頭と首、合谷は顔と口の症状の要穴です。

4つの重要な役割を一身に持つ、ジャンクションです。

だからこそ、
首・頭・呼吸・全身調整
すべてに対応できるのです。

列缺を思い出してください

もしあなたが、

・首や肩がガチガチ
・頭が重い
・ノドが詰まる
・息が浅い

そんな時は、
手首の小さなくぼみ――列缺を
思い出してください。

ここを整えることで、
呼吸が深まり、首がゆるみ、頭が軽くなる。

まさに、
体の流れを開く分岐点のツボです。

投稿者: 井島鍼灸院

2026.03.26更新

難経三十難 栄気と衛気の関係

今日は、東洋医学の古典
難経三十難についてお話しします。
テーマは、栄気と衛気の関係です。

少し難しそうに聞こえますが、
実はこれは、
人の体を支えるエネルギーが
どう作られ、どう巡っているのかを説明した、
とても重要な理論です。

栄気と衛気は一緒に巡るのか

まず難経は、こんな問いを立てます。

「栄気の流れは、いつも衛気と一緒なのか?」

答えは、
然り――はい、その通り。

栄気と衛気は、常に連動して巡っていると説かれています。

栄気と衛気はどこから生まれるのか

では、その栄気と衛気は、
どこから生まれるのでしょうか。

難経は、こう説明します。

人は、飲食物――つまり「穀」から気を受け取る。
食べ物は胃に入り、
そこから五臓六腑へ運ばれる。

そして、取り込まれた気は
二つに分かれます。

清らかな部分は栄気、
やや濁った部分は衛気になるとされます。

ここでいう清・濁は、
汚い・きれいという意味ではなく、
役割の違いを表します。

栄気の働き

栄気は「滋養する気」です。

血とともに脈の中を流れ、
臓腑や体を潤し、養う働きがあります。

脈診で触れている気は、
この栄気の影響が大きいと考えられます。

衛気の働き

衛気は「守る気」です。

脈の外を巡り、
皮膚や筋肉の間を流れます。

体を温め、
外邪から守り、
汗の開閉を調整する。

いわば、体の防御システムです。

つまり、

体の内側を養う栄気、
体の外側を守る衛気。

この二つが協力して、
私たちの健康は保たれています。

栄衛の巡り

さらに難経は、
この栄衛の巡りをこう表現します。

「栄は休まず巡り、
五十にして再び大会す。」

これは、栄衛の気が
一昼夜で体を50周する
という意味に解釈されています。

昼に25周、夜に25周。
絶え間なく巡り続け、
再び合流するのです。

そして最後に、

「陰陽相貫き、
環の端なきが如し」

と述べます。

これは、
始まりも終わりもない輪のように
栄気と衛気が連携しているという
美しい比喩です。

後世への影響

この理論は、

✔ 胃は穀の海ある
✔ 気血は飲食から生まれる
✔ 寸口の脈で全身を診る

といった、
後世の診断理論の土台になりました。

難経三十難が伝えたいこと

難経三十難が伝えたいのは、

「生命は、巡りによって支えられている」 ということです。

気が巡り、
栄え、守られることで、
私たちは生きています。

古典は難しく見えますが、
そこには、

食事の大切さ
巡りの大切さ
脈を診る意味

といった、
今の臨床にも通じる知恵が詰まっています。

もしこの話が面白いと感じたら、
ぜひ、古典の世界を一緒に学んでいきましょう。

次回も、東洋医学の奥深さをお届けします。
ご視聴ありがとうございました。

投稿者: 井島鍼灸院

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