平成15 年11 月1 日の東洋医学研究財団臨床鍼灸医学研究会で、師匠の黒野保三先生に教えて頂いた内容をご紹介させて頂きます。
神と徳について
神とは、神で雷電の意味で「ひどい雷嗚や烈風の場合、天意を恐れて顔色を変じ、たたずまいを改める」という意味である。すなわち、「人の力を持ってしては、どうすることもできない自然の力」それを神と考え尊崇したものである。このように、東洋哲学に於ける神の観念は、西洋に於ける「ゴッド」という考えとは全く異なったものである。したがって、東洋医学を研究する上では、この考え方を踏まえて律することが必要である。鬼神とか百鬼等に意味が拡大されているが、根本概念は自然神で、すべて自然の力を神と考え、崇めることによって、自己を謙虚に見つめ、自己の内面を磨いたことによって、東洋哲学思想が発生し発展した。
東洋医学は東洋哲学思想を基盤として体系化された医学であるといわれるのは、医学の基盤が自然界の哲理と精神文化によって組み立てられているからである。徳の原字は、直の下に心をそなえた字であり「まっすぐな心」を意味したものである。さらに彳を加えたのが徳の字である。そこで、徳とは「まっすぐな行為」を意味し、いわゆる直行(正直な行い)のことである。鍼灸医師の人間性の基本を現わしたもので、東洋の自然哲学に基づいて、徳を与える鍼灸施療を行うことが真の鍼灸診療である。この精神の深さによって、古典の真理を引き出すことができるものと定言する。
このような内容を長年に渡り教えて頂けたことは、生涯の幸運であり心より感謝しております。意識し、行動できるよう努力して参ります。