難経第75難には、こんな印象的な言葉が出てきます。
東方実し、西方虚す。
南方を瀉し、北方を補う。
漢字だけ見ると、とても難しそうですよね。
でも、この言葉が伝えようとしていることは、意外なくらい実用的です。
今日はこの第75難を、できるだけわかりやすくお話しします。
まず東洋医学では、体の働きを五行、
つまり木火土金水という五つの関係で見ていきます。
これを臓腑にあてはめると、
木は肝
火は心
土は脾
金は肺
水は腎
という対応になります。
では、第75難の
「東方実し、西方虚す」とは何か。
東方は木、つまり肝。
西方は金、つまり肺です。
ですからこれは、
肝が実していて、肺が虚している、
そういう状態を表しています。
ここで大事なのは、
肝だけが単独で強くなっていると見るのではない、ということです。
第75難では、
まず肺の弱りがある。
そのため、本来なら肝を抑えるはずの力が弱くなり、
結果として肝が強く見えている、
と考えます。
つまり、表面だけ見ると「肝が強すぎる」ように見える。
でも本当は、その背景に「肺の弱り」がある。
これが75難のとても大事な視点です。
強く出ている症状を、そのまま単純に叩けばいいわけではない。
その奥にある弱りを見なさい。
そう教えているんですね。
では、どう治療するのか。
ふつうに考えると、
肝が実しているなら肝を瀉して、
肺が虚しているなら肺を補えばよさそうに思えます。
でも75難は、そうは言いません。
南方を瀉し、北方を補う。
つまり、火を瀉し、水を補う、と言います。
火は心、
水は腎です。
なぜ、肝と肺の問題なのに、心と腎を動かすのでしょうか。
ここに五行の立体的な見方があります。
心の火は、肝の木から生まれる子です。
一方、腎の水は、肝の木を生み出す母です。
つまり肝は、
上流に腎がいて、下流に心がある、
そんな位置にあります。
そこで75難では、
腎水を補うことで全体の土台を立て直し、
さらに心火が鎮まることで、
肝の昂ぶりも落ち着いていく、
そう考えます。
言いかえると、
興奮している枝葉をいきなり切るのではなく、
根元のアンバランスを整えて、
結果として全体を静める治療です。
これが75難の面白さであり、深さです。
しかも最後には、こんな意味の言葉が出てきます。
その虚を治せなければ、
そのほかを論じても意味がない。
これはとても重要です。
目立っている実の症状ばかり追いかけるのではなく、
まずは背景にある虚、つまり弱りを見極めて治しなさい、
ということです。
75難は、まさにそこを見抜く理論であり、
これが難経75難の核心です。
難しい条文ですが、言っていることはとても臨床的です。
表に見えるものだけで判断せず、
その奥にある本当の原因を探る。
この視点は、今の時代のストレス性の不調や、自律神経の乱れを考えるときにも、
とても示唆に富んでいると思います。











