井島鍼灸院ブログ

2026.07.19更新

 

慢性痛は「脳が痛みを覚えている」こともあります

突然ですが、
人間は「痛みを感じるのが上手くなる」ことがあります。

そう聞くと、少し不思議に感じるかもしれません。

しかし、長引く慢性痛では、患部そのものの問題だけでなく、
脳の優れた適応能力が裏目に出ているケースもあります。

本来、脳はとても学習能力の高い器官です。
自転車の乗り方を覚えたり、楽器の演奏が上達したりするように、
繰り返し経験したことを記憶し、反応しやすくなっていきます。

実は、痛みもこれと似た仕組みで「学習」されることがあります。

脳は痛みを学習することがある

痛みの信号が何度も脳に送られ続けると、痛みを伝える神経の通り道が強化され、
信号が伝わりやすくなってしまうことがあります。

最初は細いけもの道のようだった神経の通り道が、何度も使われることで整備され、
やがて高速道路のようになっていくイメージです。

この痛みの高速道路ができてしまうと、服が擦れた、気圧が変わった、
少し動かしたといった些細な刺激でも、痛みとして脳に伝わりやすくなることがあります。

つまり、体に大きな異常がなくても、脳や神経が過敏になっていることで、
痛みが続いてしまう場合があるのです。

脳は痛みを「先読み」することもある

さらに痛みの学習が進むと、脳は痛みを先読みするようになります。

たとえば、階段を上るたびに膝が痛かった経験を繰り返すと、
実際に膝へ大きな負担がかかる前から、
階段を見ただけで脳が痛みを予測してしまうことがあります。

これは、梅干しを見るだけで唾液が出るのと似ています。

過去の経験によって、脳が反射的に反応してしまうのです。

そのため慢性痛では、単に「痛い場所だけ」を見るのではなく、
脳や神経がどのように痛みを記憶しているのかを考えることも大切になります。

痛みの学習は、少しずつ解除できる

では、一度痛みを覚えてしまった脳は、ずっとそのままなのでしょうか。

決してそうではありません。

脳が変化する力は、一方向ではありません。
痛みを学習することがある一方で、安全な経験を積み重ねることで、
痛みの反応を少しずつ弱めていくことも可能です。

このように、脳が覚えてしまった過剰な反応を少しずつ解除していくことを、
「アンラーニング」と呼びます。

痛みの高速道路を、少しずつ元のけもの道に戻していくようなイメージです。

当院で大切にしている4つのアプローチ

当院では、慢性痛に対して、脳や神経に「もう安全だよ」と教え直していくことを大切にしています。

主に次の4つの視点からサポートしていきます。

1. 痛みの仕組みを知ること

まず大切なのは、患者さんご自身が痛みの仕組みを理解することです。

長引く痛みには、患部の問題だけでなく、脳や神経の過敏さが関わっている場合があります。

このことを知るだけでも、原因不明の痛みに対する不安が少し和らぎ、
脳の過剰な警報反応が落ち着きやすくなります。

私が施術中に痛みの仕組みをお話ししているのは、このためです。

「なぜ痛いのか」が少しでも理解できると、
痛みに対する恐怖がやわらぎ、回復への第一歩になります。

2. 安全な実績を少しずつ作ること

慢性痛では、「動かすとまた痛くなるのではないか」という不安が強くなることがあります。

そのため、いきなり無理に動かすのではなく、
痛みが強くならない範囲で少しずつ体を動かしていくことが大切です。

小さな範囲でも、

「動かしても大丈夫だった」
「少し歩いても悪化しなかった」
「前より怖くなかった」

という安全な経験を積み重ねることで、脳は少しずつ安心を学習していきます。

3. 鍼灸による生理学的な反応を引き出すこと

鍼や灸の心地よい刺激は、痛みの信号とは別の感覚として脳や神経に伝わります。

この刺激が先に伝わることで、脊髄にある「痛みの門」が閉じ、
痛みの信号が伝わりにくくなると考えられています。

また、鍼灸刺激によって心身がリラックスしやすくなり、
脳が過敏な状態から少しずつ落ち着いていくことも期待できます。

慢性痛では、ただ痛みを抑えるだけでなく、
脳や神経が安心しやすい状態を作ることが大切です。

鍼灸は、そのきっかけづくりとして役立つ可能性があります。

4. 心身の緊張をゆるめること

「この痛みは治らないのではないか」
「また悪くなるのではないか」

こうした不安やストレスは、痛みをさらに強く感じさせることがあります。

心と体はつながっています。

精神的な緊張が続くと、筋肉もこわばりやすくなり、
血流も悪くなり、痛みに敏感な状態が続きやすくなります。

鍼灸で体のこわばりをゆるめることは、
心の緊張をやわらげる助けにもなります。

体が少し楽になることで、気持ちも落ち着き、
脳が「安全」を感じやすくなっていきます。

慢性痛は、正しく向き合うことが大切です

慢性痛は、単純な原因だけで起こるものではありません。

患部の状態、神経の過敏さ、脳の記憶、不安、ストレス、生活習慣など、
さまざまな要因が複雑に関わっています。

もちろん、痛みの中には医療機関での検査や治療が必要なものもあります。

その一方で、検査では大きな異常が見つからないのに痛みが続く場合、
脳や神経が痛みを学習してしまっている可能性も考えられます。

そのような痛みに対しては、痛みを無理に消そうとするだけでなく、
脳に少しずつ安全を再学習させていくことが大切です。

慢性痛は、決して「気のせい」ではありません。

脳や神経が一生懸命に体を守ろうとして、
少し過敏になりすぎている状態ともいえます。

その過敏な反応を、正しい理解と適切な刺激、
そして安全な経験の積み重ねによって、少しずつやわらげていく。

それが、慢性痛と向き合ううえで大切な考え方だと思います。

 

投稿者: 井島鍼灸院

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