難経六十八難とは?鍼灸師がツボを選ぶ「五兪穴」の考え方
鍼治療を受けたときに、
「なぜ、このツボを選んだんだろう?」
と思ったことはありませんか?
鍼灸師がツボを選ぶときには、症状が出ている場所だけを見るのではなく、
経絡や臓腑、体全体の状態を考えながら治療を組み立てていきます。
その考え方の土台の一つとなっているのが、東洋医学の古典『難経』です。
今回は、その中でも**「難経六十八難」**に書かれている
「五兪穴(ごゆけつ)」について、わかりやすくご紹介します。
五兪穴とは?
東洋医学では、手足の先から肘や膝に向かうにつれて、
経絡を流れる「気」の状態が変化していくと考えます。
その変化を、水が湧き出て次第に大きな川になっていく様子に例えたものが
「五兪穴」です。
五兪穴には、次の五つがあります。
**井穴(せいけつ)**
水がこんこんと湧き出す場所に例えられます。
**滎穴(えいけつ)**
湧き出した水が、小さな流れとなって進み始める場所です。
**兪穴(ゆけつ)**
水が集まり、注ぎ込む場所に例えられます。
**経穴(けいけつ)**
水の流れが大きくなり、しっかりと流れていく場所です。
**合穴(ごうけつ)**
水がさらに深く入り、大きな川へ合流する場所に例えられます。
この五つを合わせて、「五兪穴」と呼びます。
十二経脈それぞれに五兪穴がある
五兪穴というと、特定の五つのツボだけを指しているように思われるかもしれません。
しかし実際には、十二経脈それぞれに、井・滎・兪・経・合という
五つのツボがあります。
つまり五兪穴とは、経絡を流れる気がどのように変化していくのかを、
五つの段階として表した考え方なのです。
六十八難に書かれている五兪穴の主治
六十八難で興味深いのは、この五つのツボに、
それぞれ得意とすると考えられてきた症状が示されていることです。
井穴は、みぞおちのつかえや張り。
滎穴は、体が火照る、熱っぽいといった症状。
兪穴は、体の重だるさや関節の痛み。
経穴は、咳や喘鳴、寒気と熱が交互に現れるような症状。
合穴は、気が逆上するような症状や、お腹の不調。
このように、かなり古い時代から、
体に現れる症状とツボとの関係が整理されていました。
五兪穴は単なる「症状別ツボ一覧」ではない
ここで大切なのは、
「体が重いから兪穴を使う」
「咳があるから経穴を使う」
というように、単純に症状とツボを
一対一で当てはめるものではないということです。
実際の鍼灸治療では、
その症状がどの経絡や臓腑と関係しているのかを考えます。
さらに、
体の働きが不足している状態なのか。
それとも、余分な熱や気の滞りなどがある状態なのか。
症状がいつから、どのような経過で起こったのか。
その人がもともとどのような体質なのか。
こうしたことを総合的に見ながら、
使用する経絡やツボを決めていきます。
同じ「咳」という症状であっても、
すべての人に同じツボを使うとは限らないのです。
六十八難は鍼灸師の「考え方」を示している
六十八難は、五兪穴の名前や主治を覚えるためだけの章ではありません。
大切なのは、
**今、体の中でどのような変化が起きているのか。**
そして、
**その状態に対して、どの経絡のどのツボを選ぶのか。**
という治療の考え方です。
およそ二千年前の人たちが、人の体に現れるさまざまな変化を丁寧に観察し、
それを経絡や経穴と結びつけながら体系化してきたことを考えると、
とても興味深いものがあります。
まとめ
難経六十八難では、経絡上にある井穴・滎穴・兪穴・経穴・合穴という
「五兪穴」と、それぞれの主治について説明されています。
五兪穴は単なるツボの分類ではなく、経絡を流れる気の変化と、
体に現れる症状との関係を考えるための重要な理論です。
現在の鍼灸治療でも、患者さん一人ひとりの症状や体質、
経過を見極めながら、適切なツボを選んでいくことが大切です。
古典から受け継がれてきた知恵を大切にしながら、
目の前の体の状態を丁寧にみていく。
難経六十八難は、そんな鍼灸治療の基本的な考え方を
今に伝えている章の一つといえるでしょう。











