こんにちは
井島鍼灸院です
今回は、突発性難聴に悩む若い男性の症例をご紹介します。
この患者さんは、発症から1年半経過しても聴力の改善がみられず、
警察官試験の受験資格を失っていました。
しかし、鍼治療をきっかけに聴力検査での数値が改善し、
最終的に警察官採用試験の受験資格を得られるまでに回復されたケースです。
◆ 発症の経緯
ある朝、患者さんが目を覚ますと、左耳の聞こえに異常を感じました。
「耳鳴り」「耳が詰まったような感覚」「特定の音が響いて苦痛」――
慌てて耳鼻科を受診したところ、診断は突発性難聴
ステロイド点滴やビタミン剤による治療を行いましたが、改善はみられませんでした。
高音域(4000Hz以上)が70dB以上でないと聞こえず、耳鳴りも続いたまま
複数の医療機関を受診しても「改善の見込みは低い」と説明を受け、治療を中止していたそうです。
それから約1年半――
「どうしても警察官になりたい」という思いを捨てきれず、
当院のウェブサイトを見つけて来院されました。
◆ 初診時の状態
- 左耳の難聴、耳鳴り、耳閉感
- 特定の音が響く
- 手足の冷え、顔色の悪さ
- 首・肩・耳まわりの強い張り
これらの所見から、内耳の血行不良が関与している可能性が高いと考え、
鍼治療による全身の血流改善とバランス調整を目的に施術を開始しました。
◆ 治療方針
- 生体制御療法(黒野式全身調整基本穴)
背中・お腹・肩・首など、全身13カ所のツボを使って身体のバランスを整え、
自律神経と血流の調和を図りました。 - 局所治療(耳周囲)
耳周囲のツボに鍼を打ち、筋膜への刺激や低周波通電を併用しました。
使用した主なツボ:角孫・耳門・聴宮・聴会・翳風・外関・中渚
使用鍼は30mm・0.18mmの細い鍼で、円皮鍼も併用しました。
治療頻度は週2回・約2か月間
また、生活面では「体を冷やさないこと」を意識してもらいました。
◆ 治療経過
- 2回目:顔色が良くなり、眠気を感じる。耳の症状は変化なし
- 5回目:手足の冷えが軽減し、体調全体が良くなる
- 8回目:左耳の「音が響く感覚」がやや和らぐ
- 12回目:左耳が聞きやすくなり、耳の詰まり感が軽減
- 15回目:聴力検査で4000Hz・1000Hzともに40dBに改善
- 17回目:左耳の聴力が正常範囲(25dB)に回復
- 18回目:難聴・耳閉感・響きがほぼ消失。耳鳴りは寝る前のみ軽度に
その後、警察官試験の受験資格を得られ、見事合格!
現在は警察官として勤務されています。
◆ 考察
突発性難聴は、内耳や聴神経の障害による感音性難聴の一種で、
原因は明確でないことが多い疾患です。
代表的な要因としては以下が挙げられます。
- 内耳の血流障害
- ウイルス感染
- アレルギー反応
- 内耳膜の破裂
- 内リンパ水腫(内耳の水分バランス異常)
本症例では明確な器質的異常は認められませんでしたが、
手足の冷え・顔色不良・首肩の緊張などから、
内耳の血流障害による酸素不足が主な要因であったと推測されます。
内耳の「血管条」は非常に細く、ここでの血流低下は聴覚細胞の機能低下を引き起こします。
全身の血流を整え、局所の循環を改善する鍼治療は、こうした微細循環の改善に寄与した可能性が考えられます。
◆ 研究的裏づけ
2024年に発表された大規模メタ分析では、
鍼治療を取り入れた群は標準治療のみの群に比べて、
治療効果が約1.18倍高いという結果が報告されています。
さらに、聴力の平均改善幅は約10.7dB、
難治性症例でも47.1%に改善がみられたとされています。
今回の症例でも、血流や自律神経の改善を通して
聴力・耳鳴り・耳閉感が軽減し、日常生活の質が大きく向上しました。
◆ まとめ
突発性難聴は、発症から時間が経過すると回復が難しいケースが多い疾患です。
しかし、全身の血流や神経バランスに働きかける鍼治療が、
一部の患者さんに有効に作用する可能性があります。
すべての症例が同様の結果になるわけではありませんが、
今回のようなケースは、今後の臨床的検討においても貴重な示唆を与えてくれます。
井島鍼灸院では、一人ひとりの体質・状態に合わせた施術を行い、
つらい症状の根本改善を目指しています。
同じような症状でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。