湿布も痛み止めも効かない。それでも痛みが戻ってくる理由
画像検査をしても大きな異常は見つからない。それなのに、なぜ痛みだけが続くのでしょうか。
もしかすると、その痛みは単なる「故障のサイン」ではないのかもしれません。
今回は「痛みとは一体何なのか」「なぜ痛みは長引くのか」「痛みを取るための治療とは、本質的に何をしているのか」という3つのテーマについて、わかりやすくお話しします。
痛みは誰にとっても身近なものです。朝起きたときの腰の重だるさ、長時間のデスクワーク後の肩こり、不意にぶつけた膝の鋭い痛み、何年も続く慢性的な痛み。できることなら避けたいものですが、少し考えてみてください。
もし痛みがまったくなかったら、私たちの体はどうなるでしょうか。熱いものに触れても手を引っ込めず大やけどをしてしまうかもしれませんし、骨が折れていても気づかずに歩き続け、体の中で起きている重大な異変を見過ごしてしまうかもしれません。つまり痛みは、私たちを苦しめるだけのものではなく、本来は体を守るために必要な警告信号なのです。
第1章 痛みとは何か
痛みと聞くと、多くの方は「体のどこかが傷ついて、その信号が脳に届くことで感じるもの」とイメージされるのではないでしょうか。もちろんそれは間違いではありませんが、現代の痛みの科学では、痛みはそれほど単純なものではないと考えられています。
国際疼痛学会は痛みを、「実際の、または潜在的な組織損傷に関連する、あるいはそのような損傷に似た、不快な感覚的・情動的体験」と定義しています。ここで大切なのが「情動的体験」という言葉です。痛みには体で感じる感覚の側面と、心で感じる感情の側面があります。
たとえば同じ注射でも、リラックスしているときと強く緊張しているときでは痛みの感じ方が違います。楽しいことに夢中になっているときは痛みをあまり感じないことがある一方、不安や心配が強いときには痛みが何倍にも強く感じられることがあります。つまり痛みは、体の傷の大きさだけで決まるものではありません。脳が、体の状態、心の状態、過去の経験、そのときの不安や安心感を総合して、痛みとして感じているのです。
痛みが伝わる仕組みと2つの神経
皮膚や筋肉、内臓には侵害受容器と呼ばれるセンサーがあり、強い圧力、熱、冷たさ、炎症物質などを感じ取ります。その情報は神経を通って脊髄に入り、さらに脳へと伝わります。痛みを伝える神経には主に2つのルートがあります。
速く伝わる神経。ピンポイントで「チクッ」とした鋭い痛みを伝えます。
ゆっくり伝わる神経。「ジンジン」「じわじわ」と広がる重だるい痛みを伝えます。
そして脊髄には、痛みの信号を調整する仕組み(ゲートコントロール理論)があります。痛いところをさすると少し楽になることがありますが、これはさする刺激が脊髄で痛みの信号を弱める方向に働くためだと考えられています。
最終的に脳へ届いた信号は、「どこがどう痛むか」という感覚だけでなく、「どれだけつらいか」という感情としても処理されます。だからこそ痛みは単なる電気信号ではなく、体と心と脳が関わる、とても複雑な体験なのです。
第2章 なぜ痛みは長引くのか
痛みには「急性痛」と「慢性痛」の2種類があり、それぞれ役割が大きく異なります。
急性痛は、ケガや炎症などの原因があり、体を守るために起こる痛みです。「ここを休ませてください」という体からのメッセージであり、原因が取り除かれて組織が修復されれば、痛みは自然に落ち着いていきます。
一方で、一般に3か月以上続く痛みを指す慢性痛は少し事情が違います。最初のケガや炎症がすでに治っているにもかかわらず、痛みだけが残り続けることがあるのです。その背景には、2つの悪循環が存在します。
1. 神経系の過敏化(末梢性感作・中枢性感作)
痛みの信号が繰り返し送られることで、神経系そのものが過敏になってしまう現象です。本来なら痛くないような軽い刺激でも痛む、少しの刺激が強い痛みに感じられる、痛みが頭から離れないといった状態に陥ります。こうなると、痛みはもはや警告信号ではなく、「痛みの回路そのものが故障して暴走している状態」と言えます。
2. 身体的・心理的な悪循環
- 身体的な悪循環: 痛みによって筋肉が緊張する ➔ 血流が悪くなる ➔ 酸素や栄養が届かず老廃物がたまる ➔ さらに痛みが強くなる
- 心理的な悪循環: 痛みが続く ➔ 不安になる ➔ 動くのが怖くなって活動量が減る ➔ 筋力や体力が落ちる ➔ さらに痛みを感じやすくなる
だからこそ慢性痛の治療では、「痛い場所だけを見る」だけでは不十分なことがあります。最初に痛みを起こした原因と、今も痛みを続けさせている要因が違っている場合があるからです。
第3章 治療の本質とは何か
「痛みを取る」と聞くと、多くの方は痛みの信号を消すことをイメージされるかもしれません。もちろん消炎鎮痛薬や局所麻酔、神経の興奮を抑える薬などで強い痛みを和らげることは非常に大切です。
しかし、ここで考えていただきたいのは、「痛みを感じにくくすること」と「体が本当に回復すること」は必ずしも同じではないということです。痛みを生み出している環境(血流不足、過度な筋緊張、自律神経の乱れ、睡眠・栄養不足、ストレス)が変わらなければ、薬の効果が切れたときに痛みはまた戻ってきてしまいます。
治療の本質は、痛みの信号を力づくで消すことではなく、「体が本来持っている自然治癒力を発揮できるように、その条件を整えること」にあります。
東洋医学がもたらすアプローチと鍼灸の役割
東洋医学には「通ぜざれば則ち痛む」という言葉があります。これは「気血の流れが滞ると痛みが生じる」という意味です。現代的に言えば、血流が悪くなり、酸素や栄養の供給が不足し、筋肉が硬くなって痛みが続きやすくなっている状態を指します。
鍼灸治療は、この滞った流れを整えることを得意としています。
- 局所の改善: 鍼の刺激によって血流を促し、筋肉の過緊張をゆるめて「痛みと筋緊張の悪循環」を断ち切ります。
- 脳と神経への働きかけ: 体内で作られる鎮痛物質(エンドルフィンなど)の分泌に関わったり、脳から脊髄へ向かう痛みの抑制システム(下行性疼痛抑制系)を活性化させたりする可能性が知られています。
つまり、痛みを外から無理に抑え込むのではなく、体全体のバランス(自律神経、血流、心身の緊張)を見つめ直し、「体自身が持っている調整力を引き出す」のが全身調整の視点です。
痛みの治療を支える三つの層
私たちがアプローチする痛みの治療は、以下の三つの層に整理することができます。
骨折の固定や感染症の治療など、原因が明確な急性痛に対して最も重要となる対応です。
血流の促進、筋肉の緊張緩和、睡眠や自律神経のバランス調整など、体が自ら治ろうとする環境を整えます。
体本来の炎症調整力や痛みを抑える仕組みを引き出し、痛みが生じにくい「調和が取れた状態」へと導きます。
おわりに
痛みは単なる敵ではなく、体からの大切なメッセージです。痛みが消えるのは「目的」ではなく、体が整った結果として訪れる「現象」です。
痛みを敵として戦うのではなく、体全体の調和を回復させていく過程の中で、痛みは自然と和らいでいきます。そのお手伝いをすることが、私たち治療者の本質的な役割です。
痛みに悩んでいる方へ。あなたの体には、痛みを乗り越える力が必ず備わっています。その力を信じて、一緒に一歩ずつ歩んでいきましょう。











