井島鍼灸院ブログ

2026.07.25更新

鍼治療はアルツハイマー病に役立つ可能性があるのか
カリフォルニア大学アーバイン校医学部の研究から

今回は、アメリカの名門、カリフォルニア大学アーバイン校 医学部から発表された、
非常に興味深い研究をご紹介します。

テーマは、

「鍼治療はアルツハイマー病に役立つ可能性があるのか」

というものです。

2026年、カリフォルニア大学アーバイン校医学部の研究チームは、
アルツハイマー病モデルのマウス研究をまとめた、
大規模なメタ分析とシステマティックレビューを発表しました。

アルツハイマー病は、認知症の代表的な病気であり、
記憶障害や判断力の低下などを引き起こします。

現在、アルツハイマー病を根本的に治す治療法はまだ確立されておらず、
世界的にも大きな課題となっています。

29本の動物実験を解析

今回の研究では、2014年から2025年までに行われた、
29本の動物実験が解析されました。

対象となったのは、アルツハイマー病モデルのマウス研究です。

その結果、電気鍼を中心とした鍼刺激によって、
いくつかの重要な変化が確認されました。

記憶や学習能力の改善

まず注目されたのは、記憶や学習能力の改善です。

アルツハイマー病モデルのマウスでは、
迷路試験などで認知機能の低下が確認されます。

しかし、鍼刺激を行ったマウスでは、
学習成績や記憶力が改善する傾向が見られたと報告されています。

これは、鍼刺激が単に体の痛みやこわばりに関係するだけでなく、
脳の認知機能にも何らかの影響を与える可能性を示す結果です。

アミロイドβやリン酸化タウへの影響

さらに注目されたのが、脳内の異常タンパク質への影響です。

アルツハイマー病では、アミロイドβやリン酸化タウと呼ばれる異常タンパク質が脳内に蓄積し、
神経細胞を傷つけると考えられています。

今回の解析では、鍼刺激によって、
これらの異常タンパク質の蓄積が減少する可能性が示されました。

もちろん、これはマウスを対象とした研究であり、
そのまま人間に当てはめることはできません。

しかし、アルツハイマー病の病態に関わる重要な要素に対して、
鍼刺激が影響を与える可能性が示された点は、非常に興味深いところです。

脳の慢性炎症を抑える可能性

近年、アルツハイマー病では、脳の慢性炎症が重要視されています。

脳の中には、ミクログリアやアストロサイトと呼ばれる免疫に関わる細胞があります。

これらは本来、脳を守るために働く細胞ですが、過剰に活性化すると、
炎症反応が続き、神経細胞に悪影響を及ぼす可能性があります。

今回の研究では、鍼刺激がこうした脳内の免疫細胞の過剰な活性化にも影響を与え、
炎症反応を抑える可能性があると考えられています。

つまり鍼は、単に症状を一時的に和らげるだけでなく、
脳の環境そのものに働きかける可能性があるということです。

脳のエネルギー代謝や神経ネットワークへの影響

研究チームはさらに、鍼刺激が脳のエネルギー代謝や、
神経細胞同士の情報伝達にも影響する可能性を指摘しています。

アルツハイマー病では、脳の神経ネットワークがうまく働かなくなり、
記憶を整理したり、新しい情報を保持したりする力が低下していきます。

特に、記憶に深く関わる海馬という部位の働きは、
アルツハイマー病において非常に重要です。

今回の解析では、鍼刺激によって、
海馬の働きやシナプス機能が保護される可能性も報告されていました。

シナプスとは、神経細胞同士が情報をやり取りする接続部分です。

この働きが保たれることは、記憶や学習能力を支えるうえで重要です。

つまり鍼刺激は、炎症を抑えるだけでなく、
脳そのものの働きを支える方向にも作用している可能性があるのです。

百会穴が有力なターゲットとして注目

今回の研究では、特に百会穴が有力なターゲットとして挙げられていました。

百会は、頭のてっぺんにある代表的なツボです。

東洋医学では、古くから頭部や精神活動、
自律神経の調整などに関係する重要なツボとして用いられてきました。

アルツハイマー病のように、脳の機能や神経ネットワークが関係する病態において、
百会が注目されている点は、東洋医学の視点から見ても非常に興味深いところです。

まだ人間で効果が確立したわけではない

ここで大切なのは、今回の研究は主にマウスを対象とした前臨床研究であるという点です。

つまり、現時点で、

「鍼がアルツハイマー病を治す」

と断言できる段階ではありません。

動物実験で有望な結果が出たとしても、
それが人間に同じように当てはまるとは限りません。

今後は、人を対象とした臨床研究によって、
安全性や有効性がさらに検証される必要があります。

鍼治療が脳に多面的に作用する可能性

一方で、今回の研究は非常に重要な示唆を与えてくれます。

それは、鍼刺激が、

認知機能
脳の炎症
異常タンパク質の蓄積
神経細胞の保護
シナプス機能
脳のエネルギー代謝

といった複数の側面に関わる可能性があるということです。

アルツハイマー病は、ひとつの原因だけで起こる病気ではありません。

脳の炎症、神経細胞の障害、異常タンパク質の蓄積、血流や代謝の問題など、
さまざまな要因が複雑に関わっています。

そのため、鍼刺激が多面的に作用する可能性があるという点は、
今後の研究において大きな意味を持つかもしれません。

東洋医学の身体観と現代神経科学

東洋医学では昔から、身体を部分ではなく全体として捉えてきました。

脳だけを見るのではなく、全身の気血の巡り、臓腑の働き、心身のバランスを重視します。

一方、現代の神経科学でも、脳は単独で働いているのではなく、
免疫、自律神経、内臓、代謝、炎症などと深く関係していることがわかってきています。

今回のような研究は、東洋医学の全身的な身体観と、現代科学の神経ネットワークの理解が、
少しずつ交わり始めていることを感じさせます。

まとめ

今回ご紹介した研究では、アルツハイマー病モデルのマウスに対する鍼刺激が、
記憶や学習能力、脳内の異常タンパク質、慢性炎症、神経ネットワークなどに影響する可能性が示されました。

特に、百会穴への刺激が有力なターゲットとして注目されています。

ただし、現時点ではマウス研究が中心であり、人間に対して効果が確立されたわけではありません。

そのため、鍼治療がアルツハイマー病を治すと断言することはできません。

しかし、脳の炎症や神経回路、認知機能に対して、
鍼が多面的に作用する可能性が少しずつ科学的に見え始めていることは、大変興味深いことです。

今後、人を対象とした臨床研究がどこまで進むのか、非常に注目されます。

投稿者: 井島鍼灸院

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