井島鍼灸院ブログ

2026.08.23更新

難経十八難とは?三部九候で身体を立体的にとらえる脈診の考え方

今回は、東洋医学の古典『難経』第十八難について、わかりやすくご紹介します。

第十八難の中心になるのは、三部九候(さんぶきゅうこう)という脈診の考え方です。

手首の脈をただ「速い・遅い」「強い・弱い」と見るのではなく、
どの位置で、どの深さに、どのような脈が現れているのかを細かく観察し、
身体全体の状態を立体的にとらえようとする考え方です。

いわば、古代の医家たちは脈を通して、身体の内部を読み取ろうとしていたのです。

三部とは「寸・関・尺」

三部とは、手首の脈を診る場所を、

寸(すん)
関(かん)
尺(しゃく)

の三つに分けて考える方法です。

それぞれの位置は、身体の上・中・下と対応すると考えられています。

寸は身体の上部

寸は、手首側に近い位置です。

古典的には身体の上部、
つまり頭部や胸部などの状態と関係する場所として考えられます。

関は身体の中部

関は、寸と尺の間にある位置です。

身体の中部に対応し、横隔膜から臍周辺までの領域や、
胃腸をはじめとする臓腑の状態を考える際に用いられます。

尺は身体の下部

尺は、寸・関より肘側にある位置です。

身体の下部、つまり下腹部、腰部、
下肢などとの関係を考える場所とされています。

このように、手首という非常に狭い範囲の中に、
身体全体を対応させて診ようとするのが、古典脈診の特徴の一つです。

九候とは「浮・中・沈」の深さ

三部九候の「九候」は、寸・関・尺のそれぞれを、
さらに異なる深さで診る考え方です。

一般的には、

浮・中・沈

という三段階で脈をみます。

軽く指を触れて感じる脈が「浮」。

少し圧を加えてみるのが「中」。

さらに深く押さえて感じる脈が「沈」です。

つまり、

寸・関・尺という3つの位置 × 浮・中・沈という3つの深さ

によって、合計9つの視点から脈を観察します。

これが三部九候という考え方です。

脈の「場所」と「深さ」から何を見るのか

三部九候で重要なのは、単に脈の位置を暗記することではありません。

寸・関・尺には身体の上下関係があり、
浮・中・沈には病の浅深や表裏を考える意味があります。

そのため古典では、

「身体のどこに変化があるのか」

「その病は浅いところにあるのか、深いところにあるのか」

といったことを、脈の現れ方から読み取ろうとしました。

現代の画像検査とはまったく異なるものですが、身体を平面的ではなく、
上下・浅深・表裏という複数の軸から立体的に考えようとしていた点は、
とても興味深いところです。

十二経脈と五行の関係

十八難では、十二経脈と寸関尺との関係についても述べられています。

そこでは、五行の相生(そうせい)という関係が重要になります。

五行では、

金は水を生み、
水は木を生み、
木は火を生み、
火は土を生み、
土は金を生む、

という循環があります。

こうした関係を背景として、手足の陰陽経や臓腑、
身体の上部・中部・下部のつながりが説明されます。

ここでも重要なのは、単なる組み合わせの暗記ではありません。

脈の位置には意味があり、臓腑や経絡、気血のつながりを
一つの体系として理解しようとする古典医学の考え方が表れています。

十八難に登場する「積聚」とは

十八難の後半では、積聚(しゃくじゅ)についても述べられます。

積聚とは、古典医学において、
身体の内側に生じる「かたまり」や「滞り」を表す言葉です。

ただし、現代医学でいう腫瘍やしこりと、
そのまま同じ意味で考えるものではありません。

古典医学の病態概念として理解する必要があります。

一般に「積」は、比較的場所が定まりやすく、固定した性質を持つものとされます。

一方の「聚」は、場所が変化しやすく、動きのあるものとして説明されます。

この違いからも、古典では病の「固定性」や「動き」まで
観察しようとしていたことがわかります。

結脈・伏脈・浮脈とは

十八難では、病の状態と脈の現れ方との関係も重視されています。

結脈

結脈(けつみゃく)は、脈の拍動が途中で不規則に途切れるように感じられる脈です。

一定の間隔ではなく、ときどき止まるように感じられることが特徴とされます。

伏脈

伏脈(ふくみゃく)は、非常に深い位置にあり、強く押さえてようやく感じられる脈です。

病が身体の深いところにあることを考える際の一つの脈象として扱われます。

浮脈

浮脈(ふみゃく)は、指を軽く触れた浅い位置でよく感じられる脈です。

古典では、身体の表層に関係する変化を考える際に用いられます。

このように十八難では、脈の深さや乱れ方などから、
病が表にあるのか裏にあるのか、深いのか浅いのかといったことを判断しようとしています。

脈だけで病を決めつけない

十八難を読むうえで、特に大切なのがこの点です。

脈だけを診て、すべてを決めるわけではありません。

患者さんが訴えている症状、痛みや不調のある場所、
腹部の状態、これまでの経過、そして脈の現れ方。

こうした情報を照らし合わせながら判断していくことが重要になります。

言い換えれば、

「脈と症状が一致しているかを確認する」

ということです。

これは現代の鍼灸臨床においても、とても大切な考え方だと思います。

十八難が教える「身体を立体的に見る」という視点

難経十八難の重要なポイントをまとめると、

寸・関・尺で身体の上・中・下を見る。

浮・中・沈で病の浅さ・深さを見る。

脈だけではなく、症状や身体所見と照らし合わせる。

という三つの視点があります。

つまり十八難は、患者さんの身体を一方向から見るのではなく、

上と下、
浅いところと深いところ、
表と裏、

という複数の視点から立体的にとらえなさい、
と教えている章だと考えることができます。

現代医学の検査とは方法も理論も異なりますが、
身体の一部分だけにとらわれず、全体のつながりを考えるという姿勢は、
現在の鍼灸臨床にも通じるものがあります。

寸関尺で全身を診る。
浮中沈で病の深さを考える。
そして、脈と症状の一致を確認する。

難経十八難には、古典の脈診を臨床に活かすうえでの重要な知恵が込められています。

投稿者: 井島鍼灸院

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