井島鍼灸院ブログ

2026.10.01更新

難経第六十一難とは?東洋医学の「四診」をわかりやすく解説

患者さんが治療室に入ってきた瞬間から、診察はすでに始まっています。

顔色を見る。
声を聞く。
症状や生活の様子を尋ねる。
そして、実際に身体や脈に触れる。

東洋医学では、こうした診察法を

望診・聞診・問診・切診

の四つに分け、まとめて四診(ししん)と呼びます。

この四診について、非常に印象的な言葉で説明しているのが、『難経』第六十一難です。

「神・聖・工・巧」とは

第六十一難には、次のような言葉があります。

「望んでこれを知るを神といい、
聞いてこれを知るを聖といい、
問うてこれを知るを工といい、
切脈してこれを知るを巧という」

ここでは、四つの診察法をそれぞれ、

望診 ― 神
聞診 ― 聖
問診 ― 工
切診 ― 巧

という言葉で表しています。

これは単純に「どの診察法が優れているか」という順位を示しているというよりも、
患者さんの身体に現れるさまざまな情報を、
異なる方法で読み取っていくことの重要性を表していると考えると分かりやすいでしょう。

目で見て、耳で聞き、言葉によって確かめ、最後に実際に身体へ触れる。

一つの情報だけで判断するのではなく、複数の情報を重ね合わせることで、
患者さんの状態をより立体的に捉えていく。

それが四診の基本的な考え方です。

望診 ― 目で身体の状態を読み取る

まずは望診(ぼうしん)です。

望診とは、患者さんの身体に現れている変化を、目で観察する診察法です。

難経第六十一難では、特に

青・赤・黄・白・黒

という五色を観察し、五臓との関係から病の状態を考えることが示されています。

東洋医学では五色を、

青は肝、
赤は心、
黄は脾、
白は肺、
黒は腎

と対応させて考えます。

ただし、実際の診察では単純に「顔が赤いから心の病」と決めつけるのではありません。

顔色の明るさや艶、表情、姿勢、動き、皮膚の状態など、
さまざまな情報を総合的に観察します。

患者さんが診察室に入ってくるときの歩き方や姿勢も、重要な情報の一つです。

聞診 ― 声や音から身体を診る

次は聞診(ぶんしん)です。

聞診とは、患者さんの発する声や呼吸音などを聞き、身体の状態を考える診察法です。

六十一難には、

「五音を聞いて病を分ける」

という考え方が示されています。

五音とは、

角・徴・宮・商・羽

のことで、五行や五臓と対応しています。

古代の医家は、声の高さや強さ、話し方などにも身体の状態が現れると考えていました。

現代の臨床に置き換えて考えても、

声に力があるか、
かすれていないか、
息切れしていないか、
話す速度やリズムに変化がないか

といったことは、患者さんの状態を知るうえで役立つ情報になります。

診察とは、患者さんが「何を話したか」だけではなく、
「どのように話しているか」を観察することでもあるのです。

問診 ― 言葉から病の背景を探る

三つ目は問診(もんしん)です。

患者さんに直接質問し、症状や身体の状態を確認する方法です。

六十一難では、

酸っぱい、苦い、甘い、辛い、塩辛い

という五味のうち、どの味を好むのかなどを尋ね、
病がどこから起こり、
どの臓腑と関係しているのかを考えることが示されています。

現在の鍼灸臨床でも、問診は非常に重要です。

痛みやしびれといった主な症状だけではなく、

食欲はどうか。
眠れているか。
便通はどうか。
身体の冷えやほてりはないか。
疲れやすくないか。

といったことまで尋ねます。

一見すると主症状とは関係がないように見える情報でも、
身体全体の状態を判断するうえでは大切な手掛かりになることがあります。

切診 ― 実際に身体へ触れて確かめる

そして四つ目が切診(せっしん)です。

切診とは、実際に患者さんの身体へ触れ、状態を確認する診察法です。

その中でも、『難経』で特に重視されているのが脈診です。

六十一難では、

「その寸口を診て虚実を視る」

という内容が示されています。

寸口とは、手首の橈骨動脈付近で脈を診る部位です。

その脈を触れることで、

身体が虚しているのか、
実しているのか、
どの臓腑に異常があるのか

といったことを判断しようとします。

難経が重視した「寸口の脈」

古代中国医学には、さまざまな脈診法がありました。

人迎気口の脈診や、三部九候といった方法も伝えられています。

その中で『難経』は、第一難から一貫して寸口の脈を重要視しています。

さらに第十八難では、

寸・関・尺

という三つの部位について詳しく論じられています。

左右の手首にそれぞれ寸・関・尺があるため、合わせて六つの部位になります。

この六つの部位から五臓六腑の状態を診ようとする考え方は、
後世の六部定位脈診につながる重要な考え方の一つとされています。

つまり『難経』では、単に脈を「速い」「遅い」「強い」「弱い」と見るだけではなく、

どこで、どのような脈を感じるか

を細かく観察し、身体全体の状態を読み取ろうとしていたのです。

四診は一つずつ独立したものではない

第六十一難を読むうえで大切なのは、四診を別々の技術として捉えすぎないことです。

望診だけで診断する。

脈診だけで判断する。

問診だけで結論を出す。

そういうことではありません。

顔色を見て、声を聞き、生活や症状を尋ね、最後に身体や脈に触れる。

それぞれの情報が一致しているのか。

それとも、どこかに食い違いがあるのか。

そうした情報を重ね合わせながら、病の本質を考えていきます。

患者さんが言葉にできない変化を拾う

患者さん自身が、身体の変化をすべて言葉で説明できるとは限りません。

「何となくだるい」

「うまく説明できないけれど調子が悪い」

そうした訴えの中にも、大切な情報が隠れていることがあります。

そのとき、

表情はどうか。
声に力はあるか。
姿勢はどうか。
脈はどう変化しているか。

といった身体から発せられているサインを丁寧に拾い上げていくことが、
東洋医学の診察では重視されます。

まとめ

難経第六十一難では、

望診・聞診・問診・切診

という四つの診察法について、
「神・聖・工・巧」という印象的な言葉を使って説明しています。

大切なのは、一つの情報だけに頼るのではなく、

目で見て、耳で聞き、言葉で確かめ、身体に触れること。

そして、それぞれの情報を重ね合わせながら、
患者さんの状態を総合的に捉えることです。

患者さんが治療室に入ってきた、その瞬間から診察は始まっている。

言葉にならない身体の変化まで、顔色や声、姿勢、脈から丁寧に読み取っていく。

そこに、『難経』第六十一難が伝える「四診の奥深さ」があるのです。

投稿者: 井島鍼灸院

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