井島鍼灸院ブログ

2026.11.04更新

変形性股関節症に鍼治療はどう働くのか?痛みの原因と治療の目的を鍼灸師が解説

歩き始めや立ち上がるときに、股関節が痛くありませんか?

「歩き始めに足の付け根がズキッと痛む」

「靴下を履こうとすると、股関節が痛くて足を上げにくい」

「椅子から立ち上がる瞬間に痛みを感じる」

「長く歩いていると、股関節だけでなくお尻や太ももまで痛くなる」

このような症状が続いていませんか?

こうした股関節の痛みの原因の一つに、
変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)があります。

変形性股関節症は、特に中高年以降にみられることが多く、
日常生活にさまざまな影響を及ぼす病気です。

歩く、立つ、座る、階段を上るといった何気ない動作がつらくなり、
症状が進むと靴下を履くことや足の爪を切ることが難しくなる場合もあります。

今回は、変形性股関節症に対して、鍼治療では何を目的に施術するのか、
痛みの仕組みや周囲の筋肉との関係を交えながら、わかりやすくご紹介します。

変形性股関節症とは、どのような病気なのでしょうか?

股関節は、骨盤側の受け皿である寛骨臼(かんこつきゅう)と、
大腿骨の先端にある大腿骨頭(だいたいこっとう)によって構成されています。

この二つの骨の表面は関節軟骨で覆われており、
滑らかに動く仕組みになっています。

しかし、加齢や骨格の特徴、長年の負荷などによって関節軟骨が傷み、
関節のすき間が狭くなったり、骨の形が変化したりすることがあります。

これが変形性股関節症です。

日本では、股関節の受け皿が浅い
「寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)」が
背景にある方も少なくありません。

受け皿が浅いと、大腿骨頭を十分に覆うことができず、
関節の一部分に負担が集中しやすくなる場合があります。

変形性股関節症の代表的な症状は、
鼠径部(そけいぶ)、つまり足の付け根の痛みです。

ただし、痛む場所は鼠径部だけとは限りません。

お尻や太ももの前面・外側、ときには膝の近くまで痛みが広がることもあります。

そのため、股関節に問題があっても、
最初は太ももや膝の痛みとして感じる方もいらっしゃいます。

股関節の痛みは、軟骨がすり減ることだけでは説明できません

変形性股関節症について、
「軟骨がすり減っているから痛い」と説明されることがあります。

もちろん、関節軟骨の変化は、この病気の重要な特徴です。

しかし、実際の痛みは、それだけでは説明できません。

なぜなら、関節軟骨そのものには、
通常、痛みを感じる神経が存在しないからです。


股関節の痛みには、関節を包んでいる関節包、滑膜、靱帯、周囲の筋肉や腱、
そして関節軟骨の下にある軟骨下骨(なんこつかこつ)など、
さまざまな組織が関係しています。

また、痛みによって歩き方が変わり、
周囲の筋肉に負担が集中することもあります。

そのため、レントゲンで確認される関節の変形の程度と、
実際に感じる痛みの強さが必ずしも一致するわけではありません。

変形性股関節症では、骨や軟骨の状態だけでなく、周囲の筋肉や関節の動き、
日常生活での負担なども考えることが大切です。

鍼治療では、股関節周囲の筋肉や痛みに着目します

変形性股関節症に対する鍼治療は、すり減った軟骨を再生させたり、
変形した骨を元の形に戻したりすることを目的としたものではありません。

主に、痛みの軽減や、
周囲の筋肉の緊張に対する働きかけなどを目的として行われます。

股関節の周囲には、立つ、歩く、脚を上げるといった
動作を支える重要な筋肉が数多くあります。

特に注目したいのが、次のような筋肉です。

中殿筋・小殿筋・大殿筋

お尻には、中殿筋(ちゅうでんきん)、
小殿筋(しょうでんきん)、大殿筋(だいでんきん)があります。

中殿筋や小殿筋は、片脚で立つときや歩くときに、
骨盤を安定させる重要な働きを担っています。

大殿筋は、股関節を後ろに伸ばす動作や、立ち上がる動作などに関係します。

腸腰筋

腸腰筋(ちょうようきん)は、股関節の前面に位置する筋肉で、
脚を持ち上げる動作に大きく関係しています。

歩行時に脚を前へ出すときや、階段を上るときなどにも働きます。

大腿筋膜張筋と内転筋群

股関節の外側には大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)、
内側には内転筋群(ないてんきんぐん)があります。

これらの筋肉も、股関節の動きや安定性に関係しています。

股関節が痛くなると、無意識に痛む場所をかばうような歩き方になることがあります。

すると、特定の筋肉に負担が集中したり、
筋肉が防御的に緊張したりする場合があります。

こうした状態が続くと、
股関節をさらに動かしにくくなるという悪循環が生じることもあります。

股関節周囲のツボ「環跳」と「居髎」

鍼灸では、股関節周囲の症状に対して、
環跳(かんちょう)や居髎(きょりょう)などの経穴が伝統的に用いられてきました。

環跳(GB30)

環跳は、足の少陽胆経に属する経穴で、お尻の外側から後方に位置しています。

股関節周囲の筋肉や深部の組織と関連する部位にあり、
古くから股関節や下肢の痛みなどに用いられてきました。

居髎(GB29)

居髎も、足の少陽胆経に属する経穴です。

骨盤の外側に位置し、股関節周囲の症状に対して用いられてきました。

また、股関節の深部には、梨状筋(りじょうきん)をはじめとする
深層外旋筋群があります。

これらの筋肉は、股関節の回旋や安定性に関係しています。

実際の鍼灸治療では、環跳や居髎などの経穴だけでなく、
中殿筋や小殿筋、腸腰筋、内転筋などの状態も考慮して施術を組み立てます。

ただし、股関節の深部には坐骨神経などの重要な組織も存在します。

そのため、解剖学的な位置関係を十分に理解し、
安全に配慮して施術することが重要です。

鍼の刺激は、痛みにどのように働くのでしょうか?

鍼治療による痛みの軽減については、さまざまな研究が行われています。

鍼の刺激によって感覚神経が刺激され、
脊髄や脳における痛みの情報処理に影響を与える可能性が考えられています。

また、身体がもともと持っている痛みを調節する仕組みである、
内因性オピオイドや下行性疼痛抑制系などとの関係も研究されています。

さらに、筋肉の緊張や局所の血流などに変化が生じる可能性も検討されています。

必要に応じて、鍼に弱い電気刺激を加える「低周波鍼通電」を用いる場合もあります。

ただし、こうした作用が考えられていることと、
変形性股関節症に対する十分な治療効果が確立されていることは同じではありません。

変形性股関節症への鍼治療については、
痛みや身体機能の改善の可能性を示した研究がある一方、
研究の規模や質などに限界があり、効果については慎重に判断する必要があります。

大切なのは、痛みだけでなく股関節の動きも確認すること

変形性股関節症の治療では、痛みがどの程度あるかということに加えて、
股関節がどのくらい動くのかも大切な評価項目です。

特に確認したいのが、股関節の屈曲と内旋です。

屈曲は、太ももをお腹の方へ持ち上げる動きです。

内旋は、太ももを内側へ回す動きです。

変形性股関節症では、こうした動きが制限されることがあります。

また、日常生活の中で、

- 椅子から立ち上がるときの痛み
- 歩き始めの痛み
- 歩ける距離や歩きやすさ
- 靴下を履く動作のしやすさ
- 階段の上り下りの状態

などが、どのように変化しているのかを確認することも重要です。

骨の変形による強い可動域制限がある場合には、
鍼治療だけでその動きを元に戻すことはできません。

しかし、痛みや防御的な筋緊張が軽減すれば、
身体を動かしやすくなる可能性があります。

そのような変化を日常生活の改善につなげていくことが大切だと考えています。

鍼治療と運動療法を組み合わせることの重要性

変形性股関節症では、鍼治療だけに頼るのではなく、
運動療法を組み合わせることも重要です。

運動療法は、股関節周囲の筋力を維持し、
関節の動きや日常生活の機能を保つための基本的な治療の一つです。

特に、中殿筋や大殿筋など、
股関節を安定させる筋肉の働きを維持することが大切です。

また、症状に合わせて股関節の可動域を保つ運動や、
歩行の練習などを取り入れる場合もあります。

鍼治療によって痛みが和らいだ場合には、その状態を活かしながら、
無理のない範囲で運動療法を進めていくことが考えられます。

ただし、運動の内容や負荷は、
股関節の変形の程度や痛みの状態によって異なります。

痛みを我慢して無理に運動するのではなく、
整形外科医や理学療法士などと相談しながら進めることが大切です。

変形性股関節症に対する鍼治療の役割とは?

変形性股関節症に対する鍼治療は、
関節の変形そのものを治す治療ではありません。

しかし、痛みの軽減や身体を動かしやすくすることを目的とした、
補助的な治療の選択肢となる場合があります。

重要なのは、股関節周囲の筋肉や関節の状態を確認しながら、
日常生活の中でどのような動作に困っているのかを把握することです。

そして、鍼治療だけでなく、運動療法や生活習慣の見直し、
必要に応じた整形外科での治療などを組み合わせていくことが大切です。

まとめ|股関節の痛みと上手に向き合うために

変形性股関節症では、関節軟骨や骨の変化だけでなく、
周囲の筋肉や関節を包む組織なども痛みに関係しています。

鍼治療では、こうした痛みに関わる要因に着目し、
痛みの軽減や身体機能の維持を目指します。

ただし、鍼治療ですり減った軟骨が再生したり、
変形した骨が元に戻ったりするわけではありません。

股関節の状態に合わせて運動療法や医療機関での治療を組み合わせ、
歩行や日常生活をできるだけ快適に続けていくことが大切です。

投稿者: 井島鍼灸院

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