体温調節の乱れ ― 原因不明の不調が鍼治療で改善した症例
暑い夏の日なのになぜか寒くて、
服を何枚も重ね着してしまう…。
逆に、少し動くと急に汗が噴き出して止まらない。
体温のコントロールがうまくできない。
病院で検査をしても「原因がわからない」と言われてしまう。
もし、あなたが同じような悩みをお持ちなら、
今日のお話を、ぜひ最後まで聞いてください。
◆ 師匠・黒野保三先生の治療記録
これは、私が修行時代に、師匠・黒野保三先生の治療症例を
学会で発表させていただいた時の記録です。
今回の患者さんは60代の男性。
20年ほど前に結核を患い、治ってからなんとなく体温の調節に違和感を感じていたそうです。
当時は仕事が忙しく、症状も軽かったため、そのままにしていました。
ところが、60歳で定年を迎えたあと、生活リズムががらりと変わりました。
その環境の変化がストレスとなり、体温調節の乱れが一気に悪化していったと考えられます。
◆ まるで体温のスイッチが壊れたように
真夏の30度を超える日でも「寒い」と感じる。
服を4枚重ねてもまだ冷える。
でも着込みすぎると、今度は急に汗がドッと出てしまう。
まるで体温のスイッチが壊れたようだとおっしゃっていました。
夜もつらい。布団をかけても背中がゾクゾクして寒く、寝汗でシーツがびっしょり。
手足はいつも冷たく、食欲もなく、朝は特に食べられない。
気づけば2年間で6キロも体重が減ってしまっていました。
そして何よりつらかったのは心の苦しみです。
2年間で7~8件の病院を回っても、どこでも「原因不明」。
「自分の体に、一体何が起きているんだろう…」
不安と孤独がつのり、精神的にも限界に近い状態でした。
◆ 体温調節と自律神経の関係
ここで少し、体温調節の仕組みを説明します。
私たちの体温は、脳の「視床下部」が自律神経を通じて、
血管や汗腺、筋肉などに指令を出し、一定に保っています。
しかしこの自律神経は、環境の変化や心理的な負担がかかると、
バランスが崩れ、コントロールがうまくいかなくなります。
この患者さんの場合、定年という環境変化が引き金になり、
自律神経の乱れが体温の不調として現れたと考えました。
◆ 治療の方針と取り組み
治療は急激な変化を狙わず、じっくり整える長期戦。
黒野式全身調整基本穴を使い、刺激は軽めに。
週2回のペースで治療を進めました。
さらに、乾布摩擦で皮膚を刺激し、自律神経を整えるよう促しました。
また、体温の記録を取り、体調を数字で「見える化」するようにしました。
小さな変化でも「前より良くなっている」と感じられることが、
回復への大きな力になります。
◆ 改善の経過
1ヶ月後、まだ寒さはありましたが、手足の冷えがやわらぎました。
1ヶ月半後には「少し楽になってきた」と笑顔が見られるように。
2ヶ月を過ぎるころには、朝ごはんが食べられるようになり、
冷えや寝汗も軽減。夜もぐっすり眠れるようになりました。
3ヶ月を迎えるころには、体温の変動が小さくなり、全身の調子が整ってきました。
◆ まとめ
鍼治療は、自律神経を調整し、体の自然治癒力を引き出す治療です。
今回の症例が、同じように体温の乱れや自律神経の不調でお悩みの方にとって、
希望を持つきっかけになれば幸いです。











