井島鍼灸院ブログ

2026.07.21更新

 

『黄帝内経・霊枢』経脈篇とは何か
東洋医学の「全身をつなぐ身体観」

皆さんこんにちは。
はり治療専門チャンネルです。

今回は、『黄帝内経・霊枢』第十篇にあたる「経脈篇」についてお話しします。

経脈篇は、東洋医学における経絡理論の中心とも言える、非常に重要な篇です。

もし「九鍼十二原」が、鍼治療の基本理念を示した篇だとすれば、この「経脈篇」は、

気血はどこを流れ、
なぜ症状が起こり、
どこを治療するのか

を体系的に説明した、人体ネットワーク理論の中核と言えます。

経脈篇は「ツボの並び」だけを説明しているわけではない

経脈篇では、人体を巡る十二経脈について詳しく説明されています。

これは、現在の鍼灸でも基本となっている十二の経絡体系です。

ただし、ここで大切なのは、経脈篇が単に「ツボの並び」を説明しているわけではない、
という点です。

どこから始まり、
どこを通り、
どの臓腑とつながり、
どのような症状が現れ、
身体のどこに異常が出るのか。

経脈篇では、こうした内容が非常に詳細に論じられています。

つまり経脈とは、単なる線やルートではなく、
身体全体の働きや病の現れ方を理解するための重要な考え方なのです。

経脈を理解することは、治療の核心である

経脈篇には、非常に有名な言葉があります。

「経脈者、所以能決死生、処百病、調虚実、不可不通。」

読み下すと、

経脈は、生死を決し、百病を処し、虚実を調える所以なり。通ぜざるべからず。

という意味になります。

簡単に言えば、

経脈を理解することは、
生死に関わる状態を見極め、
さまざまな病を理解し、
虚実を判断し、
治療を行ううえで欠かせない。

ということです。

古代の医家たちは、経脈を単なる理論としてではなく、
臨床の核心として捉えていました。

どの経脈に異常があるのか。
その異常はどの臓腑や身体機能と関係しているのか。
どの部位に症状として現れているのか。

これらを読み解くことが、治療の土台になると考えられていたのです。

「是動病」と「所生病」という考え方

経脈篇では、「是動病」と「所生病」という考え方も登場します。

大まかに言うと、

是動病とは、その経脈の変動によって現れる症状。
所生病とは、その経脈が関わる臓腑や身体機能に関連して現れる症状。

そのように理解されています。

たとえば胃経では、顔、歯、胃、脚まで症状が連動すると説明されます。

これは、東洋医学では「胃の不調は胃だけに現れる」とは考えない、
ということです。

胃に関係する経脈の流れに沿って、
顔や口、歯、喉、胸腹部、脚などにも変化が現れると考えます。

つまり東洋医学では、症状を一か所だけで見るのではなく、
全身のつながりの中で理解しようとするのです。

現代的な視点との共通点

経脈篇に書かれている内容は、現代医学の言葉そのものではありません。

しかし現代でも、身体を全体として捉える考え方は少しずつ広がっています。

たとえば、

関連痛。
内臓体性反射。
筋膜のつながり。
自律神経ネットワーク。
脳と身体の相互作用。

こうした考え方には、
経脈篇の身体観と一部通じる部分があるのではないかと考えられます。

もちろん、経絡そのものの実体が現代科学で完全に解明されているわけではありません。

しかし、身体は単なる部品の集まりではなく、
神経、血流、筋膜、免疫、内臓、脳機能などが複雑に連動していることは、
現代の研究でも重要視されています。

その意味で、経脈篇が示す「全身のつながりを見る」という視点は、
今なお非常に興味深いものです。

気血が巡る「流注」という考え方

経脈篇では、気血が十二経脈を順番に巡る「流注」という概念も説明されています。

流注とは、経脈の流れの順序を示す考え方です。

肺経から始まり、
大腸経、胃経、脾経、心経、小腸経、膀胱経、腎経、心包経、三焦経、胆経、肝経へと巡り、
最後は再び肺経へ戻る。

このように、身体全体が一つの循環するシステムとして捉えられています。

東洋医学では、身体の一部だけを切り離して見るのではなく、
全体の流れの中で状態を判断します。

ある場所に出ている痛みや不調も、
別の経脈や臓腑の働きと関係している場合があると考えるのです。

経脈篇が伝えている身体観

経脈篇の本質は、

人間の身体は、バラバラの部品ではなく、全体がつながっている

という思想です。

だから東洋医学では、局所だけでなく、全身の流れを見ます。

痛みがある場所だけを見るのではなく、
どの経脈と関係しているのか。
どの臓腑の働きと関係しているのか。
身体全体のバランスはどうなっているのか。

そうした視点から、治療方針を考えていきます。

ここに、鍼灸には西洋医学とは少し違う、独自の身体の見方があります。

まとめ

『黄帝内経・霊枢』の経脈篇は、東洋医学における経絡理論の中心となる篇です。

そこでは、十二経脈の流れだけでなく、臓腑との関係、症状の現れ方、
虚実の判断、治療の考え方までが体系的に述べられています。

経脈篇が伝えているのは、身体を部分ではなく、
全体のつながりとして見るという視点です。

現代科学でも、身体は神経、筋膜、血流、免疫、自律神経、脳機能などが
複雑に関わり合うシステムとして理解されつつあります。

その意味で、経脈篇の身体観は、古典でありながら、
現代の臨床にも多くの示唆を与えてくれる内容だと感じます。

鍼灸治療では、目の前の症状だけでなく、
その背景にある全身のつながりを大切にします。

それこそが、経脈篇が今に伝えている大切なメッセージではないでしょうか。

投稿者: 井島鍼灸院

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