井島鍼灸院ブログ

2026.10.16更新

難経第39難とは?「五臓六腑」と「六臓五腑」の謎をわかりやすく解説

私たちは普段、「五臓六腑」という言葉をよく使います。

東洋医学における五臓とは、肝・心・脾・肺・腎の5つ。
六腑とは、胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦の6つを指します。

ところが、『難経』第39難には少し不思議な問いが出てきます。

古い経典の中には、「腑は5つ、臓は6つ」と書かれているものがあるのです。

五臓なのに、なぜ臓が6つなのか。
六腑なのに、なぜ腑が5つなのか。

第39難は、この数の違いを説明している章です。

なぜ「臓」が6つになるのか

まず、臓が6つになる理由から見ていきましょう。

一般的な五臓は、

・肝
・心
・脾
・肺
・腎

の5つです。

ところが第39難では、「腎」を左右に分けて考えます。

原文には、

「その左を腎となし、右を命門となす」

という趣旨の記述があります。

つまり、左側を「腎」、右側を「命門」と考えるのです。

すると、

肝・心・脾・肺・腎・命門

となり、全部で6つになります。

これが、第39難において「臓が6つ」と説明される理由です。

命門とは何か

では、この「命門」とは何なのでしょうか。

第39難では、命門について「精神の舎るところ」といった意味の説明がされています。

さらに、男性では精を蔵し、女性では胞につながると述べられています。

ここでいう「精」は、現代医学でいう精子だけを意味するものではありません。

東洋医学における精は、生殖だけでなく、成長や発育、
生命活動を支える根本的な働きまで含んだ、より広い概念として考えられています。

また「胞」についても、現代医学の子宮だけにそのまま置き換えるより、
女性の生殖に関係する器官や機能を表す古典的な表現として理解した方がよいでしょう。

つまり命門は、単なる「右側の腎臓」という意味ではありません。

古代中国医学では、生命力や生殖、
成長と深く関係する働きを示す存在として捉えられていたのです。

腎と命門は別々なのか

第39難では腎と命門を左右に分けて説明していますが、
完全に別々のものとして考えているわけではありません。

原文には、

「その気、腎と通ず」

という趣旨の記述もあります。

つまり、腎と命門は分けて説明されながらも、
働きとしては密接につながっていると考えられています。

この点が、第39難の命門論を理解するうえで重要です。

なぜ「腑」は5つになるのか

では次に、なぜ腑は5つとされるのでしょうか。

五臓には、それぞれ対応する腑があります。

・肝 ― 胆
・心 ― 小腸
・脾 ― 胃
・肺 ― 大腸
・腎 ― 膀胱

この組み合わせだけを見ると、腑は5つになります。

もちろん、東洋医学では三焦を加えて六腑とします。

では、なぜ第39難では「五腑」と考えるのでしょうか。

そのポイントが「三焦」です。

三焦は特殊な腑

三焦は、六腑の一つに数えられます。

しかし第39難では、三焦は五臓のどれか一つと直接対応する腑ではないと考えられています。

胆は肝に対応し、小腸は心に対応し、胃は脾に、大腸は肺に、膀胱は腎に対応します。

一方、三焦には、このような一対一で対応する五臓がありません。

そのため、五臓に直接属する腑だけを数えると、

胆・小腸・胃・大腸・膀胱

の5つとなります。

これが「腑は5つ」とされる理由です。

第39難は単なる数合わせではない

第39難を読むと、

「六臓五腑という数を説明するために、無理に数を合わせているのではないか」

と感じる方もいるかもしれません。

しかし、この章の大切なところは、単なる数合わせではありません。

第39難では、

「左を腎、右を命門とする考え方」

そして、

「五臓のどれか一つに直接属するわけではない、特殊な腑としての三焦」

という二つの考え方を用いています。

この二つを組み合わせることで、
古典に見られる「五臓六腑」と「六臓五腑」という違いを説明しているのです。

古代中国医学における「臓腑」は現代医学の臓器とは少し違う

ここで注意したいのは、難経に出てくる「腎」や「命門」「三焦」などを、
そのまま現代医学の臓器に置き換えないことです。

現代医学では、腎臓は実際の臓器として形や働きが明確に定義されています。

しかし古代中国医学における「腎」は、単に腎臓そのものだけではなく、
成長、発育、生殖、水分代謝など、さまざまな働きを含む概念として捉えられています。

命門や三焦も同様です。

目に見える一つの臓器というより、
身体の働きや生命活動を説明するための概念として理解することが大切です。

命門と三焦から見えてくる古代の生命観

古代の医家たちは、人間の身体を単なる臓器の集合として見ていたわけではありません。

身体の中で生命を支える働きが、互いにどのようにつながっているのか。

それを、腎、命門、三焦などの概念を通して整理しようとしました。

現代の私たちから見ると、命門や三焦は少し分かりにくい概念かもしれません。

しかし、その背景を知ると、
古代の医家たちが人の身体を「働きのつながり」として見ていたことが分かってきます。

まとめ

『難経』第39難では、「五臓六腑」と「六臓五腑」という数の違いについて説明しています。

ポイントは大きく二つあります。

一つ目は、腎を左右に分け、左を腎、右を命門と考えることで「六臓」とすること。

二つ目は、三焦を六腑の一つとしながらも、
五臓のどれか一つに直接属する腑ではないと考えることで、
「五臓に対応する腑」は5つとすることです。

第39難は、単に臓腑の数について説明した章ではありません。

命門や三焦という考え方を通して、
古代中国医学が生命をどのように捉えていたのかを知ることができる一編です。

約2000年にわたり伝えられてきた『難経』。

第39難を読むと、私たちが普段何気なく使っている「五臓六腑」という言葉の奥に、
古代の医家たちが考えた生命観が見えてきます。

投稿者: 井島鍼灸院

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